判旨
控訴審が第一審の無罪判決を破棄して有罪を宣告する場合であっても、独自に事実の取調べを行い、その証拠に基づき有罪の認定を下したときは、事実誤認を理由とする破棄自判として適法である。
問題の所在(論点)
控訴審が第一審の無罪判決を事実誤認により破棄し、自ら有罪判決を言い渡すこと(破棄自判)が許されるための要件および手続の適法性。
規範
控訴裁判所が第一審の無罪判決に事実の誤認があるとしてこれを破棄し、自ら被告人に有罪の判決を下すためには、適法な事実の取調べを行い、その証拠を総合して有罪の確信に至ることを要する。
重要事実
第一審で無罪判決を受けた被告人に対し、控訴審(原審)は事実の取調を実施した。具体的には、検察官の請求に基づき、弁護人および被告人が出頭した公判において、3名の証人に対する尋問を行った。原審は、これらの証言およびその他の証拠を総合して事実誤認を認定し、第一審判決を破棄した上で、被告人に対して懲役1年(執行猶予3年)の有罪判決を言い渡した。これに対し弁護側は、原判決が証拠に基づかず有罪を認定した違法・違憲があるとして上告した。
あてはめ
原審は、弁護人と被告人が立ち会う公開の公判手続において、新たに証人3名の尋問という事実の取調べを行っている。このように、第一審の証拠のみならず、控訴審で自ら取り調べた証拠を総合して有罪の認定を下している以上、証拠に基づかない認定とはいえない。したがって、第一審の無罪判決を事実誤認として破棄し、自ら有罪を言い渡した手続に違法はない。憲法違反を主張する前提となる「証拠によらない認定」という事実関係も認められない。
結論
控訴審が独自の事実取調べに基づき、第一審の事実誤認を理由に破棄自判して有罪を宣告することは適法であり、上告を棄却する。
実務上の射程
控訴審の事後審的性格が強調される現在の実務(刑訴法397条、400条ただし書)においても、第一審判決の事実誤認を理由に破棄自判する際の基礎となる。第一審の直接主義・口頭主義を尊重しつつ、控訴審で改めて証拠調べを行い心証を得た場合には、破棄自判が可能であることを示す。特に、第一審の無罪判決を覆す際には、慎重な証拠調べが必要であるという文脈で言及されるべき判例である。
事件番号: 昭和27(あ)5877 / 裁判年月日: 昭和31年9月26日 / 結論: 破棄差戻
一 第一審判決が起訴にかかる公訴事実を認めるに足る証明がないとして、被告人に対し、無罪を言い渡した場合に、控訴裁判所が右判決は事実を誤認したものとしてこれを破棄し、自ら何ら事実の取調をすることなく、訴訟記録および第一審裁判所で取り調べた証拠のみによつて、直ちに被告事件について、犯罪事実の存在を確定し有罪の判決することは…