第一審判決は、被告人の本件行為を過剰防衛行為であると認定して法律上の減軽をした上更らに酌量減軽をして被告人を懲役四年に処しているのに、原判決は証拠に基き過剰防衛行為に該当しないことも明らかであるとして被告人の控訴趣意を排斥して控訴を棄却したものであるから、原判決は第一審判決を事実誤認又は判決に影響ある法令違反ありとしてこれを破棄し、ただ被告人のため控訴をした事件であるの故を以て第一審判決の言渡した懲役刑よりも重くない刑を言渡すべきものであつたといわなければならない。それ故、この点において原判決には違法がある。しかし、本件は被告人のために上告した事件であるから、右の違法は原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものとは認められない。
原判決の判断の通りとすれば第一審判決を破棄自判しなければならない場合に控訴を棄却した誤りがあつても結局同一の刑に処するときは、刑訴第四一一条に当らない
刑法36条2項,刑訴法335条2項,刑訴法380条,刑訴法396条,刑訴法402条,刑訴法411条
判旨
控訴裁判所が第一審判決の認めた法律上の減軽事由を否定しながら、被告人のためのみの控訴であることにより第一審判決を破棄せず維持することは違法であるが、直ちに著しく正義に反するものとして破棄を要するとは限らない。
問題の所在(論点)
被告人のみが控訴した事件において、控訴審が第一審の認めた法律上の減軽事由を否定した場合に、第一審判決を破棄せず控訴を棄却することが許されるか。また、その違法が上告理由(刑訴法411条)となるか。
規範
被告人のために控訴がなされた事件において、控訴裁判所が第一審の認めた法律上の減軽事由(過剰防衛等)を証拠に基づき否定した場合、理論上は第一審判決に事実誤認又は法令違反があるとしてこれを破棄し、不利益変更禁止の原則(刑訴法402条)の範囲内で判決を言い渡すべきである。もっとも、上告審においては、かかる原判決の違法が「著しく正義に反する」(刑訴法411条)と認められない限り、原判決を破棄することは要しない。
重要事実
第一審判決は、被告人の行為を刑法36条2項の過剰防衛と認定し、法律上の減軽及び酌量減軽を行って懲役4年を言い渡した。これに対し被告人のみが控訴したところ、原判決は、証拠に基づき過剰防衛には該当しないと判断して被告人の控訴を棄却した。第一審が認めた減軽事由を否定したにもかかわらず、結論において第一審判決を維持した状態となった。
あてはめ
原判決は、第一審が認定した過剰防衛の成立を否定した以上、第一審判決には事実誤認又は判決に影響を及ぼすべき法令の違反があるといえる。したがって、本来であれば原判決は第一審判決を破棄した上で、不利益変更禁止の制限の下、第一審の刑(懲役4年)より重くない刑を言い渡すべきであった。ゆえに原判決には形式上の違法がある。しかし、本件は被告人のためのみの上告であり、刑期の面で被告人に実質的な不利益が生じていないこと等の諸事情に照らせば、右の違法は原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものとは認められない。
結論
原判決の手続には違法があるが、判決を破棄しなければ著しく正義に反するとまでは認められないため、上告は棄却される。
実務上の射程
不利益変更禁止の原則が働く場面において、控訴審が第一審より被告人に不利な法的構成(減軽事由の否定等)を採る際、主文で控訴棄却を用いることの是非に関する。実務上、理由中で第一審の減軽を否定しつつ結論を維持する処理は違法とされるが、上告審での救済は「著しい正義に反するか」という高いハードルが課される点に注意が必要である。
事件番号: 昭和28(あ)3383 / 裁判年月日: 昭和29年4月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】尊属殺重罰規定(旧刑法205条2項)が憲法14条に反しないことは当裁判所の判例により確立しており、被害者が尊属たる地位を失っているとの主張も認められない。 第1 事案の概要:被告人が尊属に対して傷害致死罪を犯した事案。弁護人は、尊属殺重罰規定の全面的な違憲性、および本件被害者が憲法14条の観点から…