台湾高等法院、宇都宮地裁及び東京区裁判所の各判決は、刑訴四〇五条三号に掲記する判例にあたらない。
台湾高等法院、宇都宮地方裁判所及び東京区裁判所の各判決と刑訴四〇五条三号の判例
刑訴法405条3号
判旨
食糧管理法違反の罪において、行為者が取引の違法性を認識し、かつ違法性阻却事由に関する錯誤も認められない場合には、適法行為の期待可能性がないとはいえない。
問題の所在(論点)
食糧管理法違反の罪において、被告人が法令違反を認識している場合に、なお「適法行為の期待可能性」を否定して責任を免れさせることができるか。
規範
犯罪が成立するためには、行為者が自己の行為の違法性を認識している(あるいは認識し得る)ことに加え、適法行為に出ることを期待できる事情(期待可能性)が必要とされる。もっとも、法令の禁止規定を認識し、かつ違法性を阻却すべき特別の事情に関する錯誤も存しない場合には、特段の事情がない限り、期待可能性を欠くとは認められない。
重要事実
被告人らは、食糧管理法およびその附属法令により制限されていた食糧取引を行った。被告人らは当該取引が法令に違反するものであることを十分に認識しており、かつ、その行為が例外的に正当化されるような違法性阻却事由が存在すると誤信していた(違法性阻却原因に関する錯誤)という事実も認められなかった。弁護人は、当時の社会経済状況に照らし適法行為を期待できないと主張して上告した。
あてはめ
本件において、原判決は被告人らが取引の違法性を十分に認識していたこと、および違法性阻却原因に関する錯誤がなかったことを事実として認定している。このような状況下では、あえて法令に違反する行為を選択したことにつき、適法な手段による食糧確保等の代替的な行動を期待することが不可能であったとは認められない。したがって、期待可能性を否定すべき事情は存在しないと解される。
結論
被告人らの行為について期待可能性は認められ、食糧管理法違反の罪が成立する。本件上告は棄却されるべきである。
実務上の射程
本判決は、期待可能性の理論が責任阻却事由として機能し得ることを前提としつつ、法令違反の認識がある場合にはその適用が極めて限定的であることを示している。司法試験においては、緊急避難的な状況や強い強要があるなどの特段の事情がない限り、期待可能性を否定することは困難であるという実務的運用を確認する際に参照すべきである。
事件番号: 昭和27(あ)512 / 裁判年月日: 昭和28年6月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】食糧管理法等の規制下において、米の生産者が保有米の範囲内で加工を他人に委託し、そのために輸送を行うことが適法となる場合があるとしても、法定の除外事由がない限り、当該規制に違反する行為は違法性を阻却しない。 第1 事案の概要:被告人両名は、当時の食糧管理法等の規制に違反して米の加工・輸送に関わる行為…