判決の証拠説明に架空の証拠を挙げていても、それが誤記であること明らかで全然存在しないものであるときは、事実認定の心証に影響を及ぼす筈なく、従つて判決にも影響を及ぼす虞は全然ないものであるから、判決破棄の理由にならない。
虚無の証拠が挙示されていても判決破棄の事由とならない一事例
旧刑訴法360条1項,旧刑訴法336条
判旨
食糧管理法違反の事案において、生存権や緊急避難を根拠とする期待可能性の欠如を主張しても、取引量や期間から見て不可避的な生活維持の範囲を超えていれば罪責を免れない。また、適法な法定刑の範囲内での量刑は、被告人に過酷であっても直ちに憲法36条の「残虐な刑罰」には当たらない。
問題の所在(論点)
食糧難という特殊的状況下での違法な食糧取引について、期待可能性の欠如を理由に罪責を否定できるか。また、かかる事案に対する刑罰が憲法36条の「残虐な刑罰」に当たるか。
規範
被告人の行為が、当時の社会情勢下で「何人でもそうせざるを得なかった事情」に基づき行われたといえる場合には、期待可能性の欠如等により罪責が否定される余地がある。また、憲法36条にいう「残虐な刑罰」とは、法律の許容する範囲内で量定された通常の刑である限り、被告人にとって過酷に感じられるものであってもこれに該当しない。
重要事実
被告人は、食糧難の時代において、約9か月間にわたり精米約5石6斗(約1,000リットル相当)のブローカー行為を行い、食糧管理法違反に問われた。弁護人は、当該行為が「餓えを凌ぐために誰でもがやらざるを得ないささやかな取引」であり、生存権の行使や緊急避難的な状況にあるとして無罪を主張した。
あてはめ
被告人の行為は、9か月という長期間にわたり、5石6斗という多量の精米を扱ったブローカー行為である。これは「餓えを凌ぐためのささやかな取引」の域を明らかに超えており、当時の事情に鑑みても「何人でもそうせざるを得なかった」不可避的な行為とは評価できない。したがって、被告人の罪責を否定すべき根拠はない。また、量刑についても、法律の範囲内で行われている限り、裁量の濫用は認められず、残虐な刑罰には当たらない。
結論
被告人の行為には期待可能性の欠如は認められず、食糧管理法違反の罪責を負う。また、本件の量刑は憲法36条に違反しない。
実務上の射程
期待可能性の欠如を主張する際の限界点(生計維持の範囲を逸脱した営利性・継続性のある行為には適用されないこと)を示す。また、憲法36条の違憲主張に対し、法定刑内での量刑である限り原則として合憲とする判断枠組みとして活用できる。
事件番号: 昭和26(あ)3902 / 裁判年月日: 昭和29年2月11日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】食糧管理法による食糧の流通規制は、生存権を規定した憲法25条に違反しない。また、併合罪の関係にある公訴事実のうち、一部の事実に大赦があった場合には、その部分について免訴を言い渡すべきである。 第1 事案の概要:被告人は、食糧管理法に基づき制限されていた粳(うるち)玄米の携帯輸送、および大豆の輸送を…