本件被告人のごとく「販売又は消費の目的をもつて政府、食糧公団又は販売業者から買い受けた者」は、所論規定の新設(昭和二五年一一月一五日)以後は、農林大臣又は都道府県知事の指示に基づき売り渡す場合は適法とされるに至つたが、右指示に基づかないで売り渡す場合は、食糧管理法施行令一〇条違反の罪が成立することは所論のとおりである。しかし、右新設以前においては「販売又は消費の目的をもつて政府、食糧公団又は販売業者から買い受けた者」が、売り渡す場合はすべて右一〇条違反の罪が成立する。
食糧管理法施行令第一〇条違反罪の成立すべき場合
食糧管理法施行令10条
判旨
食糧管理法が規制対象とする「米穀」とは、用途が特定されて払い下げられたものであっても、主食用としての品質と利用価値を有する限りこれに該当する。また、規制を緩和する後法の制定以前の行為について、当該緩和措置に該当しない態様の譲渡を処罰することは、事後法による処罰(憲法39条)に当たらない。
問題の所在(論点)
1. 味噌醸造用として払い下げられた「事故米」が、食糧管理法2条の「米穀」として同法の規制を受けるか。 2. 処罰規定の改正により適法となる場合が追加された際、改正前の行為(追加された適法要件を満たさないもの)を処罰することが憲法39条に違反するか。
規範
1. 食糧管理法(当時)における「米穀」の該否は、その客観的な品質および利用価値に基づき判断されるべきであり、便宜的な払下手続上の用途指定(例:味噌醸造用)によって直ちにその性質が失われるものではない。 2. 処罰規定の改正により、一定の条件下で適法とされる除外事由が新設された場合であっても、改正前の行為につき、新設された適法要件を具備しない態様の譲渡行為を処罰することは、事後法による処罰には該当しない。
重要事実
被告人は、輸入精米(事故米)を味噌醸造用として便宜払下の手続を受け買い受けたが、これを主食用として販売・譲渡した。本件当時、政府等から買い受けた者が指示に基づかず売り渡す行為は、食糧管理法施行令10条違反とされていた。被告人は、昭和25年の改正により一定の指示に基づく売渡が適法化されたことを根拠に、改正前の行為を処罰することは事後法による処罰であり違憲であると主張した。
あてはめ
1. 本件の事故米は、手続上は味噌醸造用と指定されていたものの、客観的には主食用としての品質と利用価値を有する輸入精米であった。したがって、同法2条の「米穀」に該当し、同法9条等の販売規制を受ける。 2. 昭和25年の改正により、指示に基づく売渡は適法とされたが、本件被告人の行為は指示に基づかない譲渡である。改正前においても、このような譲渡は一律に禁止・処罰の対象であったことから、処罰の根拠は改正前後で一貫しており、事後法による処罰という事実は認められない。
結論
本件事故米は「米穀」に該当し、その無許可販売について食糧管理法違反が成立する。また、本件処罰は憲法39条に違反しない。
実務上の射程
行政上の用途指定(目的外使用の禁止等)がある物品であっても、刑罰法規の客体の該否は、その実質的な品質・性質に基づき判断されるべきであることを示した。また、制限緩和的な法改正があった場合の、改正前行為に対する憲法39条の適用範囲を確認する際の参考となる。
事件番号: 昭和27(あ)512 / 裁判年月日: 昭和28年6月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】食糧管理法等の規制下において、米の生産者が保有米の範囲内で加工を他人に委託し、そのために輸送を行うことが適法となる場合があるとしても、法定の除外事由がない限り、当該規制に違反する行為は違法性を阻却しない。 第1 事案の概要:被告人両名は、当時の食糧管理法等の規制に違反して米の加工・輸送に関わる行為…