判旨
刑法38条3項に基づき、犯意の成立には自己の行為が法律に違反することの認識(違法の認識)を必要としない。また、審理の遅延が憲法37条1項に違反する場合であっても、それが判決に影響を及ぼさないことが明らかなときは、上告理由とはならない。
問題の所在(論点)
1. 刑法38条3項における「法律を知らなかったとしても、罪を犯す意思がなかったとすることはできない」との規定に関し、故意の成立に違法の認識が必要か。 2. 審理の遅延が憲法37条1項に違反する場合、直ちに上告理由となるか。
規範
1. 故意(犯意)の成立には、自己の行為が法に触れるものであるという「違法の認識」を必要としない。これは自然犯・行政犯を問わず適用される。 2. 刑事裁判において迅速な裁判を受ける権利(憲法37条1項)に抵触し得る審理の遅延があったとしても、その遅延が判決の結果に影響を及ぼさないことが明白な場合には、上告理由には当たらない。
重要事実
被告人は共同被告人らと共に刑事事件で起訴された。第一審判決が昭和21年8月8日に言い渡された後、控訴審が開始されたが、判決言渡しは昭和26年5月1日となり、約4年8ヶ月を要した。この間、5回の公判手続が行われたが、事案が相当複雑であることや、共同被告人の一部が所在不明となり審理が分離されたことなどの事情があった。被告人側は、故意の成立には違法の認識が必要であること、および審理の遅延が憲法違反であることを理由に上告した。
あてはめ
1. 故意の成否について、判例は一貫して違法の認識を不要としており、本件においてもその解釈を変更すべき理由は認められない。 2. 審理の遅延について、本件は被告人以外に5名の共同被告人が関与する複雑な事件であり、一部被告人の所在不明による分離などの客観的制約が存在した。仮に審理が迅速性を欠き憲法違反の疑いがあるとしても、その遅延が実体判決の妥当性(有罪・無罪の判断)を左右したとは認められないため、判決に影響を及ぼさないことが明らかである。
結論
上告棄却。故意の成立に違法の認識は不要であり、また、本件の審理遅延は判決に影響を及ぼすものではないため、憲法違反の上告理由は認められない。
実務上の射程
故意の成立要件として「違法の認識」が不要であることを確認する際の基本判例として活用できる。また、迅速な裁判の原則(憲法37条1項)違反を主張する際、実務上は「判決に影響を及ぼすこと」という高いハードルがあることを示す素材となる。
事件番号: 昭和28(あ)1086 / 裁判年月日: 昭和30年7月5日 / 結論: 棄却
単純収賄の訴因につき請託収賄の事実を認定するには訴因変更手続を経ることを要する。