判旨
小切手は、たとえそれを領得したことによって国庫等の支払者に実質的な損害が生じないとしても、刑法235条の「財物」に該当する。したがって、小切手を窃取した場合には窃盗罪が成立する。
問題の所在(論点)
小切手が刑法235条の「財物」に該当するか。また、被害者に実質的な経済的損害が生じていない場合であっても、窃盗罪が成立するか。
規範
刑法上の「財物」とは、有体物であることに加え、特段の事情がない限り、それ自体に財産的価値が認められるものを指す。経済的交換価値の有無や、被害者側に生じる実質的な経済的損害の有無は、財物性の肯定を直ちに左右するものではない。
重要事実
被告人が本件小切手1通を領得(窃取)した事案。弁護人は、被告人が本件小切手を領得したことによって国庫は何ら損害を受けていないため、当該行為は当時適法であり、処罰することは憲法39条1項に違反すると主張して上告した。
あてはめ
本件小切手は、それ自体が一定の金銭的価値を表章する有体物であり、刑法236条(および235条)にいう「財物」に当たることは明らかである。被告人が主張するように、国庫(支払者側)に実質的な経済的損害が生じていないとしても、財物である小切手をその占有者の意思に反して自己の占有に移した以上、窃盗罪の構成要件を充足すると解される。
結論
本件小切手は「財物」に該当し、これを窃取した被告人の所為には窃盗罪が成立する。
実務上の射程
本判決は、有価証券の財物性を端的に認めたものである。司法試験においては、小切手や手形、あるいは財産的価値が乏しいと思われる証書等の「財物性」が問題となる場面で、経済的損害の有無にかかわらず有体物としての占有を侵害すれば足りることを示す根拠として活用できる。
事件番号: 昭和27(あ)1565 / 裁判年月日: 昭和28年7月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】小切手は、刑法246条1項に規定される「財物」に該当し、詐欺罪の客体となる。 第1 事案の概要:被告人が、人を欺いて小切手の交付を受け、これによって不法な利益を得ようとした事案。弁護人は、小切手は同条1項の「財物」に当たらないと主張して上告した。 第2 問題の所在(論点):刑法246条1項の詐欺罪…
事件番号: 昭和35(あ)2597 / 裁判年月日: 昭和38年5月17日 / 結論: 棄却
窃取した持参人払式小切手を支払銀行の係員に呈示し、正当な所持人がその支払を請求するものと誤信させたうえ、小切手の支払名下に金員を交付させたときは、右小切手の窃盗罪のほかに金員の詐欺罪が成立する。