窃取した持参人払式小切手を支払銀行の係員に呈示し、正当な所持人がその支払を請求するものと誤信させたうえ、小切手の支払名下に金員を交付させたときは、右小切手の窃盗罪のほかに金員の詐欺罪が成立する。
窃取した持参人払式小切手を呈示して小切手支払名下に金員を交付させた行為と詐欺罪の成立
刑法235条,刑法246条1項,刑法45条前段
判旨
窃取した持参人払式小切手を銀行に提示して現金を受領する行為は、窃盗罪とは別に詐欺罪を構成し、両罪は併合罪の関係に立つ。
問題の所在(論点)
窃取した小切手を換金する行為が、窃盗罪に吸収される不可罰的事後行為にとどまるのか、それとも独立して詐欺罪(刑法246条)を構成するのか。
規範
窃盗犯人が窃取した財物(贓物)を処分する際、その行為が外形上他罪の構成要件を充足する場合、それが窃盗罪の保護法益を越えて新たな法益を侵害するものであれば、不可罰的事後行為とはならず、別罪が成立する。
重要事実
被告人は、他人の所持する持参人払式小切手を窃取した(窃盗罪)。その後、被告人は自らその小切手を銀行窓口に提示し、正当な権利者であるかのように装って、額面金額相当の現金の支払を受けた。第一審および原審は、窃盗罪のほかに詐欺罪の成立を認め、これらを併合罪として処断した。
事件番号: 昭和36(あ)1653 / 裁判年月日: 昭和38年11月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】預金者が銀行窓口において、預金通帳及び払戻請求書を提出して預金の払い戻しを受ける行為が、欺罔行為にあたり詐欺罪を構成することを認めた。 第1 事案の概要:被告人が、銀行に対して預金通帳及びこれに合致する印影のある払戻請求書を提示・提出し、銀行員から現金の払い戻しを受けた行為について、詐欺罪の成否が…
あてはめ
持参人払式小切手は現金的性格が強いものの、銀行等の支払担当者は正当な権利者に対してのみ支払を行う義務を負っている。窃盗犯人が正当な所持人として振る舞い、銀行員を欺いて現金の支払を受け、銀行員に窓口での現金交付という処分行為をさせたことは、窃盗罪によって侵害された所有権の侵害とは別に、銀行員の意思決定の自由および銀行の財産を侵害するものといえる。したがって、窃盗罪の評価に包含される範疇を超えた新たな法益侵害が認められる。
結論
被告人の行為には詐欺罪が成立し、先行する窃盗罪と併合罪(刑法45条前段)の関係に立つ。原判断は正当である。
実務上の射程
不可罰的事後行為の限界を示す重要判例。答案では「状態犯における事後行為が、先行行為により侵害された法益を越える新たな法益侵害(本件では銀行の財産権等)を生じさせているか」を検討する際の基準として活用する。特に預金通帳やクレジットカードの不正利用の事案との比較で重要となる。
事件番号: 昭和36(あ)2742 / 裁判年月日: 昭和37年4月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】一度だまし取った手形を、別の被害者に対して新たな欺罔手段を用いて交付し、金員を詐取する行為は、先行する詐欺行為の不可罰的事後行為にはならず、別個に詐欺罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人は、Aから融通手形をだまし取った。その後、被告人はその手形を別の被害者Bに対し、あたかも支払の確実な商業手形…
事件番号: 平成13(あ)1341 / 裁判年月日: 平成14年2月8日 / 結論: 棄却
消費者金融会社の係員を欺いてローンカードを交付させた上これを利用して同社の現金自動入出機から現金を引き出した場合には,同係員を欺いて同カードを交付させた点につき詐欺罪が成立し,同カードを利用して現金自動入出機から現金を引き出した点につき窃盗罪が成立する。