米穀通帳を騙取しこれを配給所へ提出し、係員を欺罔して米穀の配給を受けた場合、米穀通帳の詐欺罪のほかに米穀の詐欺罪が成立するのであつて、この二罪は併合罪の関係にあるものと解するのを相当とする。
通帳を騙取した行為と右通帳を配給所へ提出して米穀を騙取した行為との関係
刑法246条,刑法45条,刑法47条
判旨
米穀通帳を騙取した後、これを配給所に提出して米穀を騙取する行為は、先行する通帳の騙取行為によって侵害された法益とは別に、新たな法益を侵害するものとして独立に犯罪が成立する。
問題の所在(論点)
騙取した米穀通帳をさらに別の詐欺行為の手段として使用し、財物(米穀)を得た場合、後続の行為は先行する詐欺罪に吸収される不可罰的事後行為となるか、あるいは独立した詐欺罪を構成するか。
規範
先行する犯罪行為によって得られた物を後続の犯罪行為に利用する場合、その後続行為が先行行為によって侵害された法益の範囲を超え、さらに「他の新法益を侵害する」といえるときは、独立した別罪が成立し、併合罪の関係に立つ。
重要事実
被告人は、まず欺罔行為を用いて他人の米穀通帳を騙取した。その後、当該騙取した通帳を米穀配給所に提示し、係員をさらに欺いて米穀を騙取した。
あてはめ
米穀通帳の騙取行為自体で一度詐欺罪が成立しているが、その通帳を用いて実際に配給所から米穀を得る行為は、通帳自体の財産的価値を超えた実質的な財産侵害(米穀の喪失)を惹起している。これは単なる通帳の領得状態の維持・確保にとどまらず、新たな欺罔行為によって「他の新法益を侵害する所為」であると解される。したがって、先行の通帳騙取とは別個の構成要件を充足し、独立した犯罪として評価されるべきである。
結論
米穀通帳の騙取罪と、それを利用した米穀の騙取罪は、それぞれ独立に成立し、併合罪(刑法45条前段)となる。
実務上の射程
不可罰的事後行為の限界を示す判例である。盗んだ預金通帳等を利用して現金を引き出す行為などが、窃盗罪や詐欺罪とは別に新たな詐欺罪や窃盗罪を構成するかを検討する際の理論的基礎となる。新法益侵害の有無を基準に、併合罪として処理すべき場面を画定する際に有用である。
事件番号: 昭和27(あ)2972 / 裁判年月日: 昭和29年2月27日 / 結論: 棄却
窃盗犯人が賍物を自己の所有物と詐り第三者を欺罔して金員を騙取した場合においては、窃盗罪のほかに詐欺罪が成立する。
事件番号: 昭和35(あ)2597 / 裁判年月日: 昭和38年5月17日 / 結論: 棄却
窃取した持参人払式小切手を支払銀行の係員に呈示し、正当な所持人がその支払を請求するものと誤信させたうえ、小切手の支払名下に金員を交付させたときは、右小切手の窃盗罪のほかに金員の詐欺罪が成立する。