判旨
一度だまし取った手形を、別の被害者に対して新たな欺罔手段を用いて交付し、金員を詐取する行為は、先行する詐欺行為の不可罰的事後行為にはならず、別個に詐欺罪が成立する。
問題の所在(論点)
他者から詐取した手形を、別の者に対し新たな欺罔行為を用いて割引させ、金員を領得する行為が、手形の詐取とは別個に詐欺罪(刑法246条1項)を構成するか。
規範
財産犯罪における「事後の領得行為」が不可罰的な事後行為として別罪を構成しないとされるのは、当該行為が先行する犯罪の侵害の範囲に含まれ、新たな法益侵害を伴わない場合に限られる。これに対し、先行する侵害とは別個の被害者に対し、新たな欺罔手段を講じて更なる財産的利益を追求した場合には、先行する侵害行為に吸収されることなく、独立して詐欺罪を構成する。
重要事実
被告人は、Aから融通手形をだまし取った。その後、被告人はその手形を別の被害者Bに対し、あたかも支払の確実な商業手形であるかのように偽って申し向けて交付し、その割引名下でBから金員をだまし取った。弁護人は、この行為はすでに領得した手形の処分行為に過ぎず、不可罰的事後行為にあたると主張した。
あてはめ
被告人は、Aから手形を詐取したにとどまらず、新たな被害者Bに対し、当該手形が「支払の確実な商業手形」であるという虚偽の事実を告知している。これはBに対する「新たな欺罔手段」にあたると評価される。その結果、Bを錯誤に陥らせ、手形の割引という名目で金員を交付させていることから、Bの財産に対する新たな法益侵害が生じている。したがって、本件行為は手形詐取の付随的結果として当然に予定された範囲を超えており、独立した詐欺罪としての構成要件を充足する。
結論
被告人の行為は、Aに対する詐欺罪とは別に、Bに対する詐欺罪を構成する(不可罰的事後行為とはならない)。
事件番号: 昭和35(あ)2597 / 裁判年月日: 昭和38年5月17日 / 結論: 棄却
窃取した持参人払式小切手を支払銀行の係員に呈示し、正当な所持人がその支払を請求するものと誤信させたうえ、小切手の支払名下に金員を交付させたときは、右小切手の窃盗罪のほかに金員の詐欺罪が成立する。
実務上の射程
共罰的事後行為の限界を画する判例である。財産罪によって得た物の処分であっても、別の被害者に対して新たな欺罔行為や強制が加わった場合には別罪が成立する。答案では「新たな欺罔手段」と「新たな被害者(法益主体)」の有無に着目して論じる際の根拠として用いる。
事件番号: 昭和27(あ)2972 / 裁判年月日: 昭和29年2月27日 / 結論: 棄却
窃盗犯人が賍物を自己の所有物と詐り第三者を欺罔して金員を騙取した場合においては、窃盗罪のほかに詐欺罪が成立する。
事件番号: 昭和39(あ)2465 / 裁判年月日: 昭和40年9月10日 / 結論: 棄却
一個の欺罔行為により財産上不法の利益を得、かつ、財物を騙取した場合は、単一なる詐欺罪を構成するものと解すべきである。