消費者金融会社の係員を欺いてローンカードを交付させた上これを利用して同社の現金自動入出機から現金を引き出した場合には,同係員を欺いて同カードを交付させた点につき詐欺罪が成立し,同カードを利用して現金自動入出機から現金を引き出した点につき窃盗罪が成立する。
消費者金融会社の係員を欺いてローンカードを交付させた上これを利用して同社の現金自動入出機から現金を引き出した場合の罪責
刑法235条,刑法246条1項
判旨
他人を欺いてローンカードを交付させた行為に詐欺罪が成立し、その後、当該カードを用いてATMから現金を引き出した行為には、交付担当者の現金に対する処分意思が認められないため、別途窃盗罪が成立する。
問題の所在(論点)
虚偽の契約によりローンカードを詐取した後、そのカードを用いてATMから現金を引き出す一連の行為において、現金に対する詐欺罪が成立するか、あるいはカード詐取とは別に現金に対する窃盗罪が成立するか。
規範
詐欺罪(刑法246条1項)が成立するためには、被害者の錯誤に基づく処分行為が必要である。一方、交付されたカードの性質、利用方法、機能及び財物性等に照らし、カードの交付行為とATMからの現金引出し行為が社会通念上別個の行為類型といえる場合、カード交付担当者に現金までの処分意思は認められず、現金引出し行為は占有者の意思に反する占有移転として窃盗罪(刑法235条)を構成する。
重要事実
被告人は、他人になりすまして消費者金融会社の係員を欺き、カードローン基本契約を締結してローンカードの交付を受けた。その約5分後、被告人は同無人契約機コーナー内に設置されたATMに当該カードを挿入・操作し、現金20万円を引き出した。被告人は現金引出しの際、係員からATMの操作教示を受けていた。
事件番号: 平成13(あ)1277 / 裁判年月日: 平成14年10月21日 / 結論: 棄却
他人に成り済まして預金口座を開設し,銀行窓口係員から預金通帳の交付を受ける行為は,刑法246条1項の詐欺罪に当たる。
あてはめ
本件基本契約では、契約者がカードを用いてATMを操作しない限り会社に貸付義務は生じない。カードは、正当な所持人でなくとも暗証番号の一致により現金が交付される機能を備えた重要な財物であり、これを得る行為と現金を引き出す行為は社会通念上別個である。カード交付担当者はカードの占有を移転させたにとどまり、ATM内の現金まで被告人に交付する処分行為をしたとは認められない。したがって、被告人が自らATMを操作して現金を得た行為は、会社の意思に反する占有奪取にあたる。係員による操作教示の事実は、この法的評価を左右しない。
結論
ローンカードの交付を受けた点につき詐欺罪が成立し、これとは別に、ATMから現金を引き出した点につき窃盗罪が成立する(併合罪)。
実務上の射程
本判例は、カード詐取後のATM利用について、包括的な一罪(現金に対する詐欺罪)ではなく、カードに対する詐欺と現金に対する窃盗の別罪成立を認める実務上の確立した枠組みを示す。機械(ATM)は欺罔の対象とならないという原則を前提としつつ、交付担当者の「処分意思」の範囲をカードに限定した点に射程がある。答案では、カードの財物性と、現金取得における「処分行為」の欠如を論理の柱とする。
事件番号: 昭和35(あ)2597 / 裁判年月日: 昭和38年5月17日 / 結論: 棄却
窃取した持参人払式小切手を支払銀行の係員に呈示し、正当な所持人がその支払を請求するものと誤信させたうえ、小切手の支払名下に金員を交付させたときは、右小切手の窃盗罪のほかに金員の詐欺罪が成立する。
事件番号: 昭和39(あ)2465 / 裁判年月日: 昭和40年9月10日 / 結論: 棄却
一個の欺罔行為により財産上不法の利益を得、かつ、財物を騙取した場合は、単一なる詐欺罪を構成するものと解すべきである。
事件番号: 昭和24(れ)2852 / 裁判年月日: 昭和25年2月24日 / 結論: 棄却
論旨は窃取しまたは騙取した郵便貯金通帳を利用して預金を引出す行爲は賍物の處分行爲として罪とならないと主張するのである。しかし賍物を處分することは財産罪に伴う事後處分に過ぎないから別罪を構成しないことは勿論であるが窃取または騙取した郵便貯金通帳を利用して郵便局係員を欺罔し眞實名儀人において貯金の拂戻を請求するものと誤信せ…