被告人は旅館の支配人であつて、本件軍票は右旅館に対する支払いを被告人が同旅館の機関(支配人)として受領したものであつても、被告人が所持したことに変りはなく、被告人はその刑責を免れるものではない。
旅館の支配人が軍票を受領した場合と連合国占領軍財産等収受所持禁止令第一条違反罪の成立
連合国占領軍財産等収受所持禁止令(昭和24年政令第389号)1条
判旨
法人の支配人がその業務に関し違法な物品を法人の機関として受領した場合であっても、自然人たる支配人自身に事実上の所持が認められる以上、不法所持罪等の刑事責任を免れることはできない。
問題の所在(論点)
法人の支配人が、法人の業務として禁制品等を受領した場合、その自然人自身に「所持」の罪が成立するか(法人の行為としての性格が自然人の刑事責任を阻却するか)。
規範
特定の物品の所持を禁ずる犯罪において、被告人が法人の機関(支配人等)として当該物品を受領し、法人のために占有したとしても、被告人自身に当該物品に対する事実上の支配(所持)が認められる以上、所持の主体として刑事責任を負う。
重要事実
被告人Aは、旅館の支配人という立場にあった。被告人は、旅館に対する支払として軍票(本件では所持が禁じられていたものと推認される)を受領した。弁護人は、被告人が旅館の支配人という「機関」として受領したものであるから、被告人個人に所持の罪は成立しないと主張して上告した。
事件番号: 昭和26(あ)3788 / 裁判年月日: 昭和28年5月15日 / 結論: 棄却
他人から預つた物を他に届けた以上、その間預つた物を事実上「自分の支配し得べき状態」に置いたものであることはいうまでもない。
あてはめ
被告人がC旅館の支配人として、旅館に対する支払いのために本件軍票を受領した事実は認められる。しかし、たとえ法人の機関という立場での受領であったとしても、被告人が当該軍票を現実に受け取り、自己の支配下に置いたという事実に変わりはない。したがって、自然人たる被告人による事実上の所持が成立すると評価される。
結論
被告人は、法人の機関として受領したことを理由に刑事責任を免れることはできず、所持の罪が成立する。
実務上の射程
法人の業務執行中に生じた犯罪(禁制品の所持、保管、収受等)において、自然人たる行為者が「会社のためにやったことだ」として責任を転嫁することを封じる法理。実務上、法人処罰規定の有無にかかわらず、現実に支配・管理を行っている自然人の実行行為性を肯定する際の論拠となる。
事件番号: 昭和27(あ)458 / 裁判年月日: 昭和28年4月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】昭和24年政令第389号(貴金属の管理に関する政令)違反と贓物罪(現行法の盗品等関与罪)が同時に成立する場合、それらは一所為数法の関係(観念的競合)にあり、大赦の適用判断においても一体として扱われる。 第1 事案の概要:被告人は、昭和24年政令第389号(貴金属の管理に関する政令)に違反する行為を…
事件番号: 昭和30(あ)2219 / 裁判年月日: 昭和35年4月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】連合国占領軍財産等収受所持禁止令は、占領目的の達成のみならず国内経済秩序の維持という公共の福祉をも目的とするため、平和条約発効後も当然に失効せず、その効力を維持させた法律も事後立法には当たらない。 第1 事案の概要:被告人は、昭和24年政令389号(連合国占領軍財産等収受所持禁止令)に違反する行為…
事件番号: 昭和27(あ)5221 / 裁判年月日: 昭和35年3月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】占領政策の遂行と国内経済秩序の維持を目的とする政令による財産権の制限は、憲法29条に違反しない。 第1 事案の概要:被告人は、昭和24年政令389号(貴金属の処分の制限等に関する政令)1条に違反する行為を行った。占領終了後も同政令の違反行為を処罰する昭和27年法律137号3条の経過規定に基づき起訴…
事件番号: 昭和28(あ)3996 / 裁判年月日: 昭和35年3月16日 / 結論: 棄却
一 昭和二四年政令第三八九号(連合国占領軍財産等収受所持禁止令)第一条は、憲法第二九条に違反しない。 二 右昭和二四政令第三八九号は、憲法第三一条に違反しない。 三 所論は、昭和二四年政令第三八九号(連合国占領軍財産等収受所持禁止令)を廃止すると共に、「この法律の施行前にした所為に対する罰則の適用については、なお従前の…