第一審裁判所が被告人の私選弁護人選任の意思を確かめずして、被告人のため国選弁護人を選任したものであるとしても、必ずしもこれによつて被告人が自らその弁護人を選任することを妨げたものといい得ないこと勿論である。
被告人の弁護人選任権を妨げたものといゝ得ない例−被告人の意思を確かめず国選した場合
憲法37条3項,刑訴法30条,刑訴法289条
判旨
裁判所が被告人の私選弁護人選任の意思を確認せずに国選弁護人を選任したとしても、直ちに被告人の弁護人選任権を侵害したとはいえず、憲法37条3項に違反しない。
問題の所在(論点)
裁判所が被告人の私選弁護人選任の意思を確認せずに国選弁護人を選任する措置をとった場合、被告人が弁護人を選任することを妨げたものとして、憲法37条3項が保障する弁護人依頼権を侵害するか。
規範
憲法37条3項前段は被告人の弁護人依頼権(私選弁護人選任権)を保障しているが、裁判所が国選弁護人を選任する手続において、被告人に対しあらかじめ私選弁護人選任の意思の有無を確認しなかったとしても、そのことのみをもって被告人が自ら弁護人を選任することを妨げたことにはならない。
重要事実
被告人の第一審において、裁判所は被告人に対し私選弁護人を選任する意思があるか否かを確認する手続を経ないまま、被告人のために国選弁護人を選任した。被告人側は、このような裁判所の措置は、被告人が自ら弁護人を選任する権利を侵害するものであり、憲法に違反すると主張して上告した。
あてはめ
仮に、第一審裁判所が被告人の私選弁護人選任の意思を確認せずに国選弁護人を選任したとしても、被告人が自ら私選弁護人を選任する機会が閉ざされるわけではない。国選弁護人の付与は、私選弁護人を選任できない被告人の防御を全うするための補完的措置であり、被告人が自ら弁護人を選任することを何ら禁止するものではない。したがって、意思確認の欠如という事実のみをもって弁護人選任権の侵害があったとはいえない。
結論
本件における裁判所の措置は、被告人が自ら弁護人を選任することを妨げたとはいえないため、憲法37条3項違反には当たらない。
実務上の射程
国選弁護制度と私選弁護人選任権の関係を示す。国選弁護人が選任されている状態でも被告人の私選弁護人選任権は維持されており、選任手続上の不備が直ちに憲法違反を構成しないことを確認する際に参照すべき。ただし、現在の刑事訴訟法・規則の下では私選弁護人の選任権告知等が義務付けられており、実務上の手続違背の問題は別途生じ得る。
事件番号: 昭和35(あ)1984 / 裁判年月日: 昭和35年12月12日 / 結論: 棄却
被告人は原審で刑訴規則一七八条による通知書に対し、弁護人を私選する旨回答し置きながら選任を懈怠し、控訴趣意書の提出最終日を経過して国選弁護人の選任を求めたものであること記録上明白であるから、違憲の問題を生じない(昭和二八年(あ)第一七〇七号、同三〇年七月二九日第二小法廷判決、昭和二五年(あ)第二一後三号、同二八年四月一…