被告人は原審で刑訴規則一七八条による通知書に対し、弁護人を私選する旨回答し置きながら選任を懈怠し、控訴趣意書の提出最終日を経過して国選弁護人の選任を求めたものであること記録上明白であるから、違憲の問題を生じない(昭和二八年(あ)第一七〇七号、同三〇年七月二九日第二小法廷判決、昭和二五年(あ)第二一後三号、同二八年四月一日大法廷判決参照)。
控訴趣意書提出期限後になした国選弁護人選任の適否。
刑訴規則178条,刑訴法289条,憲法37条3項
判旨
被告人が私選弁護人の選任を回答しながらこれを懈怠し、控訴趣意書の提出期限経過後に国選弁護人の選任を請求した場合、国選弁護人が選任されないまま提出期限が経過しても憲法違反の問題は生じない。
問題の所在(論点)
被告人が私選弁護人を選任すると回答しながらこれを懈怠し、控訴趣意書の提出期限経過後に国選弁護人の選任を申し立てた場合に、弁護人の援助を受けられないまま手続が進行することが憲法37条3項等の弁護人依頼権に反するか。
規範
被告人が弁護人の選任権を適切に行使せず、自らの過失によって弁護人が不在のまま手続が進捗した場合には、弁護人依頼権(憲法37条3項)や正当な手続の保障(同31条)に違反する問題は生じない。被告人が私選弁護人を選任する旨を明確にしながら、正当な理由なく選任を懈怠し、提出期限の間際または経過後に国選弁護人を求めたとしても、裁判所が直ちに救済する義務を負うものではない。
重要事実
被告人は、控訴審において刑訴規則178条に基づく通知に対し、私選弁護人を選任する旨を回答していた。しかし、被告人は実際には選任を懈怠し、控訴趣意書の提出最終日を経過した後に初めて国選弁護人の選任を求めた。その後、控訴趣意書の未提出を理由に控訴棄却等の不利益を受けたものと解される(判決文からは詳細な主文は不明だが、上告棄却の結論に至っている)。
あてはめ
被告人は自ら私選弁護人を選任する意思を表示しており、裁判所は被告人の主体的な権利行使を尊重して待機していたといえる。それにもかかわらず、被告人は何ら正当な理由なく選任を怠り、かつ提出期限という手続上の重要な節目を徒過した。期限経過後に国選弁護人を求める行為は、手続の遅延を招くものであり、自らの懈怠に基づく不利益を国家の責任に転嫁するものである。したがって、弁護人が不在のまま期限が経過したとしても、それは被告人自身の帰責事由によるものであり、憲法が保障する弁護人依頼権の侵害にはあたらない。
結論
被告人が弁護人の選任を懈怠した結果、弁護人の援助なく控訴趣意書の提出期限が経過しても、違憲の問題は生じない。上告棄却。
実務上の射程
本判決は、弁護人依頼権が絶対的なものではなく、被告人側の権利濫用や懈怠がある場合には制限されることを示している。実務上は、私選弁護人の選任を口実に手続を遅延させる被告人への対応根拠として機能する。答案作成上は、弁護人依頼権の侵害が争点となる場面で、被告人側の帰責事由(選任の懈怠や権利の放棄に近い状況)を指摘する際の有力な判断指針となる。
事件番号: 昭和27(あ)1250 / 裁判年月日: 昭和27年8月21日 / 結論: 棄却
第一審裁判所が被告人の私選弁護人選任の意思を確かめずして、被告人のため国選弁護人を選任したものであるとしても、必ずしもこれによつて被告人が自らその弁護人を選任することを妨げたものといい得ないこと勿論である。
事件番号: 昭和31(あ)3848 / 裁判年月日: 昭和32年6月19日 / 結論: 棄却
控訴審が被告人から貧困を理由に国選弁護人選任の請求があつたのにその選任を遅延し、控訴趣意書差出最終日を経過した後に至り国選弁護人を選任した場合において、改めて同弁護人に対し控訴趣意書を提出する機会を与える措置をとらなかつたとしても、同弁護人において自ら控訴趣意書を提出するため右最終日の変更方その他格別の請求をすることな…