米麦の供出割当数量が実収高以上であつた場合には、実収高を越える部分については、供出違反罪は成立しないのであるから、被告人の右の如き主張は、明かに旧刑訴三六〇条二項にいわゆる、法律上犯罪の成立を阻却すべき原由たる事実上の主張にあたる。
実収高を越えた米麦の供出割当に対する供出不能の主張と旧刑訴法第三六〇条第二項
食糧管理法3条,旧刑訴法360条2項
判旨
食糧管理法等に基づく米麦の供出割当数量が実収高を上回る場合、その超過部分については供出違反罪が成立せず、被告人による当該主張は「法律上犯罪の成立を阻却すべき原由たる事実上の主張」に該当する。
問題の所在(論点)
米麦の供出割当が実収高を超過しているという主張が、犯罪の成立を阻却すべき事実上の主張(現刑訴法335条2項)に該当するか、またそれに対する判断を欠いた判決の適法性が問題となる。
規範
米麦の供出割当数量が実収高を超過している場合、その超過部分については供出の義務を負わず、供出違反罪は成立しない。被告人が、実収高が割当数量を下回っていたため未供出となった旨を主張した場合は、旧刑事訴訟法360条2項(現335条2項)にいう「法律上犯罪の成立を阻却すべき原由たる事実上の主張」にあたり、裁判所はこれに対する判断を示す義務を負う。
重要事実
被告人は、昭和22年度の収穫米が105俵であったにもかかわらず、割当数量が126俵であったため、実収高を超える25俵余を供出できなかったと主張した。この主張は警察段階から公判に至るまで一貫してなされていたが、原審(東京高裁)は、この主張に対し何ら判断を示さなかった。
あてはめ
被告人の主張は、供出の前提となる客体が存在しないという物理的不可能を理由に犯罪の成立を否定するものである。このような主張は、単なる事実の否認にとどまらず、法的に犯罪成立を妨げる特別な事情の主張といえる。原審は、被告人が一貫して実収高不足による供出不能を主張していたにもかかわらず、これに対して肯認・否定のいずれの判断も示していない。これは、法律上必須とされる判断を遺脱したものであり、審理不尽の違法がある。
結論
実収高を超える割当については供出違反罪が成立しないため、被告人の主張は犯罪成立を阻却すべき事実の主張にあたる。これに判断を与えなかった原判決を破棄し、差戻しを命ずる。
実務上の射程
現行刑訴法335条2項の「法律上犯罪の成立を阻却すべき原由たる事実上の主張」の具体例として重要である。実務上は、違法性阻却事由や責任阻却事由のみならず、本件のように構成要件充足性を実質的に否定する「客観的不能」を伴う主張も同項の対象となり得る点に留意すべきである。
事件番号: 昭和24(れ)3062 / 裁判年月日: 昭和26年8月17日 / 結論: 破棄差戻
食糧管理法第三条第一項違反の罪は米麦等の生産者がその生産した米麦等で命令により定められたものを所定の時期までに供出しないことによつて成立するのであるが、右命令による供出割当量がその年度の実収高以上であつた場合には、実収高を超える部分については同罪の成立が阻却されると解すべきことはは当裁判所の判例とするところである(昭和…