一 米麦の供出割当数量がその実収高以上であつた場合には、実収高を超える部分については、供出違反罪は成立しない。 二 米麦の供出割当数量が実収高を超えるとの主張は法律上犯罪の成立を阻却すべき原由たる事実上の主張にあたる。 三 被告人は村長から政府に売渡すべき昭和二一年度産米の数量及びこれを村農業会倉庫に寄託すべき旨の通知を受け、次いで、県告示により供出米を政府に売渡すべき期限が昭和二二年三月一〇日と定められたのに、右期限までにその割当られた数量の米につき、証印の表示を受けず且つ所定の寄託をしなかつたとの事実については、食糧管理法(昭和二二年法律第二四七号による改正前のもの)第三条、第三二条同法施行規則(昭和二二年農林省令第一〇三号による改正前のもの)第三条を適用して処断すべきである。
一 米麦の実収高を超える供出割当数量と供出違反罪の成否 二 米麦の供出割当数量が実収高を超えるとの主張と旧刑訴法第三六〇条第二項の主張 三 供出のため割り当てられた米麦につき所定期限までに証印の表示を受けず且つ所定の倉庫に寄託しない行為の擬律
食糧管理法(昭和22年法律247号による改正前のもの)3条,食糧管理法(昭和22年法律247号による改正前のもの)32条,旧刑訴法360条2項,食糧管理法施行規則(昭和22年農林省令103号による改正前のもの)3条
判旨
食糧管理法に基づく米穀の供出割当数量が実収高を超えている場合、その超過部分については供出が不可能であるため、不供出による同法違反罪の成立が阻却される。
問題の所在(論点)
食糧管理法3条1項に基づく供出命令において、割当数量が実際の手穫高(実収高)を超過している場合、その超過部分について不供出の罪(同法違反)が成立するか。
規範
行政上の供出命令に基づく義務であっても、その割当数量が生産者の実収高を超過する場合、超過分については物理的・客観的に義務の履行が不可能である。したがって、実収高を超える部分については、不作為による犯罪の成立を阻却すべき原因(実行不可能性)が存在するものと解するのが相当である。
重要事実
農業を営む被告人は、昭和21年産米について食糧管理法3条に基づき106俵の政府売渡(供出)命令を受けた。しかし、指定期日までに15俵を供出したのみで、残る91俵を供出しなかったとして起訴された。被告人は、当該年度の実収高は約92俵にすぎず、供出割当の106俵を下回っていたため、実収高を超える割当分については供出が不可能であったと主張した。
あてはめ
食糧管理法3条1項が定める生産者の売渡義務は、その年度に生産した米穀を対象とすることを予定している。本件の供出割当は予想収穫高に基づく事前割当であるため、実収高が予想を下回り、割当数量に達しない事態が生じ得る。この場合、実収高を超える数量の供出は事実上不可能であり、履行を期待できない。被告人の主張によれば実収高(92俵)は割当(106俵)を下回っており、原審はこの犯罪成立を阻却すべき事実上の主張に対し、実収高が割当数量の範囲内であるか否かの判断を示さなかった審理不尽の違法がある。
結論
供出割当数量が実収高を超える場合、その超過部分については不供出による供出違反罪は成立しない。原判決を破棄し、差し戻す。
実務上の射程
行政上の義務違反を構成要件とする不作為犯において、「実行不可能性」が犯罪成立を阻却することを認めた事例である。答案上は、期待可能性や実行の可能性が認められない特殊な事情がある場合に、構成要件該当性または有責性を否定する論拠として引用し得る。ただし、本判決は戦後の食糧難時代の特殊な統制法規に関するものである点に留意が必要である。
事件番号: 昭和26(れ)640 / 裁判年月日: 昭和27年12月25日 / 結論: 破棄差戻
米麦の供出割当数量が実収高以上であつた場合には、実収高を越える部分については、供出違反罪は成立しないのであるから、被告人の右の如き主張は、明かに旧刑訴三六〇条二項にいわゆる、法律上犯罪の成立を阻却すべき原由たる事実上の主張にあたる。