判旨
強制処分の請求書や鑑定命令調書、宣誓書が記録に編綴されていない等の手続上の瑕疵がある鑑定書であっても、適法な手続を経て作成された実態があり、公判で証拠調べの機会が与えられ異議もなかった場合には、これを証拠として採用したことは判決の破棄を要するほどの違法とは認められない。
問題の所在(論点)
鑑定命令調書や宣誓書等の関係書類が記録に編綴されていない瑕疵のある鑑定書を、有罪の証拠として採用することが許されるか。
規範
鑑定書の証拠能力に関し、鑑定の端緒となる強制処分の請求書、鑑定命令調書、および宣誓書が裁判記録に編綴されていないという手続上の瑕疵がある場合であっても、(1)鑑定書自体の記載や職権調査により、実質的に裁判官による適法な鑑定命令および鑑定人の宣誓を経て作成されたことが裏付けられ、かつ、(2)公判において被告人側に証拠の要旨の告知や尋問請求の機会が適正に与えられ、異議の申立てがなされなかった場合には、当該鑑定書を証拠として採用した原判決に、著しく正義に反するような違法があるとはいえない。
重要事実
被告人らの傷害致死被疑事件において、医師Bによる死体解剖の鑑定書が作成された。しかし、当該鑑定の前提となる検察官の強制処分請求書、裁判官の鑑定命令調書、および鑑定人の宣誓書が訴訟記録に綴じ込まれていなかった。一方で、鑑定書冒頭には裁判官から鑑定を命じられた旨の記載があり、最高裁の職権調査によれば、実際には検察官による旧刑訴法上の請求に基づき、裁判官が立ち会った上で医師Bに鑑定を命じ、医師Bも宣誓の上で解剖を実施していた。原審の証拠調べでは、裁判長が鑑定書の要旨を告知し、作成者への尋問請求等が可能である旨を伝えたが、被告人側は異議を述べず、作成者の尋問も請求しなかった。
あてはめ
まず、記録上関係書類が欠落している瑕疵はあるものの、鑑定書の記載および職権調査結果によれば、適法な請求と裁判官の命令、さらには鑑定人の宣誓という法定の手続が実質的に履践されていたことが認められる。次に、手続保障の観点からは、原審において鑑定書の要旨告知や作成者尋問の機会が与えられた際に、被告人および弁護人が何ら意見を述べず、異議の申立てもしなかったという事実が認められる。以上から、関係書類の編綴漏れという形式的瑕疵があるとしても、証拠としての実質的許容性は失われておらず、これを証拠としたことに特段の違法はないと評価される。
結論
本件鑑定書を有罪の資料として採用したことに、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するほどの違法は認められない。したがって、上告を棄却する。
実務上の射程
刑事訴訟における証拠の形式的備付義務と実質的適法性の関係を示す。手続上の書類不備があったとしても、実態として適法に証拠が収集されており、かつ公判での当事者の異議留保・証拠調べ手続が適正であれば、証拠能力が否定されない場合があることを示唆している。
事件番号: 昭和33(あ)188 / 裁判年月日: 昭和33年4月30日 / 結論: 棄却
官吏でも公務員でもない所論鑑定人の作成する書類に契印することは何ら法の要求するところでない