本件自動車のガソリンタンク内のガソリンの事実上の支配権は、どこまでも占領軍当局に保有されたもので、同運転手はこれを独立して占有するものと認めることができないから、同運転手の本件ガソリンの抜取行為は正に窃盗であつて横領ではない。
占領軍所有自動車のガソリンタンクからガソリンを抜き取つた運転手の罪責−窃盗か横領か
刑法235条,刑法252条
判旨
運転手等の補助者が、管理者の支配下にある自動車のガソリンタンクからガソリンを抜き取る行為は、当該ガソリンの独立した占有が認められない以上、窃盗罪(刑法235条)を構成する。
問題の所在(論点)
自動車の運転手が、管理者の支配下にある車両のガソリンタンク内のガソリンにつき、独立した占有を有するか。その抜き取り行為が窃盗罪と業務上横領罪(または単純横領罪)のいずれに該当するか。
規範
刑法上の占有は、財物に対する事実上の支配を意味する。上下主従の関係にある者の間では、下位者が財物を物理的に所持していても、上位者の監視・管理が及び、下位者が独立して支配する権限を持たない場合には、依然として上位者に占有が認められ、下位者は「補助者」にすぎないと解する。この場合、補助者が財物を領得する行為は、上位者の占有を奪う窃盗罪を構成する。
重要事実
被告人は、占領軍に雇用されていた自動車運転手Aと共謀し、Aが運転・管理していた自動車のガソリンタンク内から、ガソリンを抜き取って領得した。弁護人は、Aがガソリンを占有していたことを前提に、本行為は横領罪(刑法252条1項)にあたると主張して上告した。
あてはめ
本件におけるガソリンタンク内のガソリンの事実上の支配権は、依然として占領軍当局に保有されていた。運転手Aはガソリンを消費・運搬する職務に従事しているものの、当局の監視・管理下で補助的に所持しているにすぎず、これを独立して占有するものとは認められない。したがって、Aがガソリンを抜き取った行為は、占領軍側の占有を侵害する窃盗罪にあたり、これに共謀した被告人も窃盗罪の共同正犯としての責任を免れない。
結論
本件ガソリンの抜き取り行為は、運転手に独立した占有がないため窃盗罪を構成する。被告人を窃盗罪(235条、60条)に処した原判決は正当である。
実務上の射程
本判決は、いわゆる占有補助者の法理を確認したものである。法人や雇用主の管理下にある物品(店舗の商品、配送車の荷物等)を従業員が持ち出す場合、その従業員に高度の独立した管理権限が委ねられていない限り、窃盗罪として処理すべきであることを示唆しており、答案上も「占有の帰属」を論じる際の有力な根拠となる。
事件番号: 昭和25(あ)741 / 裁判年月日: 昭和26年3月20日 / 結論: 棄却
原判決の維持する第一審判決は、その判示事実と判決挙示の証拠とを対照して考えると、被告人等および第一審相被上告人Aは小運送業を営み、B通運株式会社C支店の常傭として、同会社C支店長Dの保管に係る水粳玄米を同支店倉庫から食糧配給公団E支所精米所へ運搬する労務に従事中、判示のようにその運搬途上においてこれを、窃取したとの事実…
事件番号: 昭和26(あ)3788 / 裁判年月日: 昭和28年5月15日 / 結論: 棄却
他人から預つた物を他に届けた以上、その間預つた物を事実上「自分の支配し得べき状態」に置いたものであることはいうまでもない。