判旨
労働者の団体行動権は絶対的なものではなく、他者の基本的人権との調整が必要であり、目的が正当であっても手段が秩序を乱し個人の自由や権利を侵害する場合は、正当な権利行使の限界を逸脱し違法となる。
問題の所在(論点)
団体交渉権の行使として行われた行為が、不退去罪や暴行罪といった刑罰法規に触れる場合、憲法28条の保障によってその違法性が阻却されるか、あるいは権利行使の限界として処罰されるか。
規範
憲法が保障する団体行動権等の労働基本権は、他者に保障された平等権、自由権、財産権等の基本的人権を悉く排除するものではなく、後者に対して絶対的優位を有するものでもない。したがって、行為の目的が正当であっても、その手段は社会秩序を遵守し、個人の自由や権利を侵さない範囲で行われなければならず、この限界を逸脱する行為は正当な権利行使とは認められない。
重要事実
被告人等は、団体交渉権の行使を目的として行動に出たが、その過程において不退去罪および暴行罪に該当する行為を行った。被告人等は、これらの行為が労働基本権の行使として正当化される旨を主張して上告した。
あてはめ
本件における不退去および暴行の事実は、たとえ団体交渉の目的で行われたとしても、他者の自由や権利を侵害し、社会秩序を乱すものである。労働基本権が他の基本的人権に対して絶対的優位に立つわけではない以上、このような実力行使を伴う手段は、正当な権利行使の限界を明らかに逸脱していると評価される。
結論
被告人等の行為には不退去罪および暴行罪が成立し、労働基本権の行使であることを理由に免責されることはない。上告棄却。
実務上の射程
労働刑法における正当行為(刑法35条)の限界を示す。争議行為や団体交渉に伴う「実力行使」の違法性阻却を判断する際、手段の相当性(他者の人権侵害の有無)が決定的な要素となることを示す射程を持つ。
事件番号: 昭和61(あ)1311 / 裁判年月日: 平成3年11月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】争議行為等の労働組合活動が正当性を有し違法性を欠くというためには、その動機や目的のいかんにかかわらず、態様が社会通念上許容される限度を超えないものでなければならない。 第1 事案の概要:被告人らは労働組合活動の一環として何らかの行為(具体的な実行行為の内容は判決文からは不明)に及んだが、その態様が…
事件番号: 昭和26(あ)3718 / 裁判年月日: 昭和28年3月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人らの行為が業務妨害罪および建造物不退去罪の構成要件に該当する場合、その目的や意図がいかなるものであっても、直ちに違法性が阻却されることはない。 第1 事案の概要:被告人らは、特定の目的(判決文からは詳細不明)を持って他者の管理する建造物に立ち入り、退去を求められたにもかかわらずこれに応じず、…
事件番号: 昭和31(あ)1639 / 裁判年月日: 昭和33年7月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】労働者の団体行動権の行使であっても、暴行・脅迫や住居侵入等の犯罪行為に至る場合は、憲法28条による正当な範囲内にあるものとして免責されず、違法性が認められる。 第1 事案の概要:被告人らは、労働運動上の示威行為として、社長宅の敷地内に設置されていた障壁を取り外し、示威行進を続けながら前庭内の通路部…
事件番号: 昭和27(あ)11 / 裁判年月日: 昭和27年11月21日 / 結論: 棄却
日雇労働者を中心として組織された小樽市合同労働組合が、市長の諮問機関である同市失業対策委員会に対し日雇労働者の労働条件改善のための交渉をする行為は、労働組合法にいわゆる団体交渉行為にあたらない。
事件番号: 昭和26(れ)1209 / 裁判年月日: 昭和27年10月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】争議行為に伴う暴行・脅迫や不法監禁等の行為は、正当な争議行為の範域を逸脱するものであり、刑法35条及び旧労働組合法1条2項(現1条2項)による正当行為として免責されない。 第1 事案の概要:労働組合関係者らによる争議行為に際し、他者に対して暴行・脅迫(判示第一)及び不法監禁(判示第二)が行われた。…