判旨
不法な拘禁中に作成された供述調書であっても、その一事をもって直ちに証拠能力が否定されるものではない。また、供述に強制や拷問等の任意性を疑わせる事情が認められない場合には、憲法上の自白排除法則には抵触しない。
問題の所在(論点)
不法な拘禁中に作成された自白や、強制・拷問が疑われる状況下で得られた供述調書の証拠能力(刑事訴訟法319条1項、憲法38条2項)。
規範
供述調書が不法な拘禁中に作成されたものであるという一事をもって、当然にその証拠能力を否定すべきではない。自白の証拠能力については、強制、拷問、脅迫等によるものでなく、任意にされたものであるか否かという観点から判断されるべきである。
重要事実
被告人は、逮捕状が発布される前日の昭和25年10月12日に警察署に出頭し、取り調べを受けた。逮捕状は翌13日に発布されている。弁護人は、被告人の供述調書が不法拘禁中に作成され、かつ警察官による強制・拷問に基づくものであるとして、憲法違反および証拠能力の欠如を主張した。しかし、原審は不法拘禁および拷問の事実を否定していた。
あてはめ
本件において、被告人は逮捕状発布前に出頭しているが、直ちに留置(拘禁)された事実は認められない。また、当該供述調書は逮捕状に基づく適法な拘禁中に作成されたものであった。さらに、記録を精査しても被告人の供述が強制や拷問に基づくと認めるべき事情は存在しない。したがって、仮に手続きの一部に不当な点があったとしても、自白の任意性が保たれている以上、証拠能力は否定されない。
結論
不法拘禁の事実を前提とする主張は採用できず、自白の任意性も認められるため、当該供述調書の証拠能力を認めた原判決は正当である。
実務上の射程
事件番号: 昭和27(あ)5163 / 裁判年月日: 昭和29年3月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】任意性に疑いのある自白は証拠能力を欠くが、被告人及び弁護人が同意し、かつ記録上任意にされたものでないと疑うべき理由がない場合には、証拠とすることができる。 第1 事案の概要:被告人が司法警察員に対して行った各供述(自白調書及び上申書)について、弁護人は取調官による暴行、強制、誘導に基づいたものであ…
違法収集証拠排除法則が確立する前の古い判例であるが、自白の証拠能力を「不法拘禁」という形式的違法だけで否定せず、任意性の有無や手続き全体の実質的妥当性から判断する姿勢を示す。現代の司法試験においては、違法収集証拠排除法則(重大な違法と排除の相当性)の枠組みの中で、先行する不法拘禁が自白に及ぼす影響を検討する際の参考となる。
事件番号: 昭和27(あ)5438 / 裁判年月日: 昭和28年9月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】自白の任意性は取調前後の情況や調書の記載内容等に照らして判断され、強制や誘導が認められず自発的になされた自白は証拠能力を有する。また、自白の真実性を裏付ける補強証拠が存在する場合には、当該自白を根拠とした有罪認定は適法である。 第1 事案の概要:被告人が強姦致傷および強姦致死の罪に問われた事案。被…