第一審裁判所が禁錮以上の刑に処せられてその執行を終つた日から七年を経過しない者に対し、誤つて懲役刑に執行猶予を付したが、控訴中に七年を経過した場合、控訴裁判所が第一審判決を破棄した上、更めて実刑を科することは違法ではない。
第一審裁判所が懲役刑につき誤つてその執行を猶予したが控訴中に執行を猶予しうる状態が生じた場合と控訴裁判所の量刑
刑法25条,刑訴法380条,刑訴法397条,刑訴法400条
判旨
第一審判決が法令の適用を誤り刑の執行猶予を付したことを理由に破棄された場合、原審において改めて執行猶予が可能な事情が生じていたとしても、裁判所が諸般の情状を考慮して実刑を科すことは、特段の事情がない限り裁判所の裁量権の範囲内として適法である。
問題の所在(論点)
第一審判決に法令の適用の誤り(執行猶予不当)があったとして破棄された場合において、原審当時の事情に基づけば執行猶予が可能であったにもかかわらず、裁判所が説明なく実刑を選択したことの適否。
規範
量刑の判断および執行猶予の当否は、裁判所の広範な裁量に委ねられている。第一審判決の法令適用誤り(執行猶予の要件欠如)を理由に判決を破棄する場合において、破棄後の自判に際し、当時の法令上は執行猶予が可能であっても、諸般の情状を考慮して実刑を選択することは違法ではない。ただし、量刑が甚だしく不当であり、これを破棄しなければ著しく正義に反すると認められる場合には、上告理由となり得る(刑訴法411条参照)。
重要事実
被告人に対し、第一審は懲役6月(執行猶予5年)および罰金2万円を言い渡した。しかし、言渡当時、被告人には懲役刑の執行終了後7年を経過していない前科があり、執行猶予を付すことは法令の適用誤りであった。検察官の控訴を受け、原審は第一審判決を破棄。原審の判決時においては、被告人はすでに前科の執行終了後7年を経過していたため、法令上は執行猶予が可能となっていたが、原審は説明を加えることなく執行猶予を付さずに実刑の懲役6月を科した。
あてはめ
原審が第一審判決を破棄したのは、一審が執行猶予を付せない欠格事由があるにもかかわらず猶予を付したという明白な法令適用の誤り(判決に影響を及ぼすべき誤り)があったためであり、その判断は正当である。自判において、被告人は確かに原審当時、執行猶予の法的要件を満たし得る状態にはあった。しかし、裁判所が諸般の情状を考慮した結果、懲役刑について執行を猶予するのが適当でないと判断して実刑を科したことは、量刑裁量の範囲内である。原審が実刑を科すに当たり詳細な説明を加えなかった点については妥当を欠く嫌いがあるものの、記録上、その量刑が甚だしく不当で正義に反するとまでは認められない。
結論
原審が実刑を科したことに違法はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
第一審の法令適用ミスを理由とする破棄自判において、事後的に猶予要件を満たしたとしても、必ずしも執行猶予を付す必要はないことを示した事例。実務上は、量刑判断における裁判所の広範な裁量を裏付けるものとして機能するが、現代の判決書作成においては、特に一審の猶予判決を実刑に変更する場合には、量刑理由において具体的な事情を詳細に示すことが要請される点に留意すべきである。
事件番号: 昭和25(れ)1897 / 裁判年月日: 昭和26年3月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑の執行を猶予するか否かは、事実審たる原裁判所の裁量権に委ねられている事柄であり、被告人に有利な事情があるとしても、執行猶予を言い渡さないことが直ちに違法となるものではない。 第1 事案の概要:被告人が刑の執行猶予を求めて上告した事案。上告人は、被告人にとって有利な諸事情(詳細は判決文からは不明)…