判旨
収賄者が賄賂を享受した後に、贈賄者に同額の金員を返還したとしても、賄賂そのものを返還したのではない限り、既に享受した利益について追徴される責任を免れることはできない。
問題の所在(論点)
収賄者が受領した金銭の一部を費消した後、贈賄者に対して受領額と同額の金員を返還した場合、刑法上の追徴(197条の5)の責任を免れることができるか。金銭の混蔵と「賄賂そのもの」の返還の可否が問題となる。
規範
刑法197条の5(旧197条の4)に基づく没収・追徴の規定は、不正な利益を犯人の手元に残さないことを目的とする。収賄者が賄賂を受領して一旦これを享受した以上、後に賄賂と同額の金員を贈賄者に返還したとしても、それは収賄による利益そのものを失わせたことにはならず、追徴の義務を免れるものではない。ただし、賄賂そのもの(物自体)を返還した場合はこの限りではない。
重要事実
被告人A、B、Cは、それぞれ贈賄者から現金を受領して収賄した。Aは受領した現金の約2割を費消し、残額を妻が他の預金と混ぜて預け入れた後、その同額を引き出して返還した。BおよびCは受領した現金の約半額を生活費に費消し、残額に別の金を合わせて同額として返還した。弁護人は、贈賄者に返還済みであるため追徴の必要はないと主張して上告した。
あてはめ
各被告人は、受領した現金をそのまま保管していたわけではなく、その一部を生活費等に費消している。Aについては預金として他の金員と混蔵させ、BおよびCについては手持ちの別個の金員と一まとめにして返還している。これらは受領した「賄賂そのもの」を返還したとは認められず、単に「一旦享受した利益に相当する額の金員」を後日返還したに過ぎない。したがって、収賄罪の成立とともに発生した利益享受の状態は解消されておらず、追徴の対象となる。
結論
収賄者が賄賂を享受した後に同額の金員を返還しても、賄賂そのものの返還でない限り、追徴の責を免れない。本件上告は棄却される。
実務上の射程
金銭の場合、受領後に消費・混蔵された時点で「賄賂そのもの」の返還は不可能となり、その後に同額を返還しても追徴を免れないことを明確にした判例である。答案上は、没収・追徴の趣旨(不正利益の剥奪)から、利益が一旦犯人に帰属したか否かを検討する際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和26(あ)3636 / 裁判年月日: 昭和27年2月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】収賄罪において、収賄者が収受した賄賂(金銭)を自ら費消した後に相当額を贈賄者に返還したとしても、収賄者は追徴の責任を免れない。 第1 事案の概要:被告人は賄賂として金銭を受領したが、これを自ら費消した。その後、被告人は費消した額に相当する金額を贈賄者に返還した。弁護人は、返還によって利益は消失した…