判旨
致死量に相当する毒物を与えて殺害を試みた場合、毒物の純度が低かったために死の結果が発生しなかったとしても、不能犯とはならず殺人未遂罪が成立する。
問題の所在(論点)
実行行為が結果を発生させる具体的危険性を欠く「不能犯」にあたるか、それとも「未遂罪」として処罰されるべきかが、毒物の純度不足という客観的事実との関係で問題となる。
規範
実行行為に際し、客観的に結果発生の危険性が認められる場合には、たまたま予期せぬ事情(毒物の純度不足等)により結果が発生しなかったとしても、不能犯とはならず未遂罪が成立する。判断にあたっては、被告人の主観的認識を基準とするのではなく、客観的な状況に基づき危険性の有無を判断すべきである。
重要事実
被告人は被害者らに対し、殺意をもって青酸加里粉末約0.06g乃至0.07gを服用させた。しかし、当該青酸加里の純度が低かったこと、被害者の一方が毒物を吐き出し、他方が早期に医師の手当を受けたことにより、いずれも死亡するに至らなかった。鑑定によれば、0.06gは通常の致死量とされる分量であったが、本件の個体については死に至るに至らなかったものである。
あてはめ
本件で被告人が用いた青酸加里0.06gは、一般に通常の致死量とされる分量であり、これを相手方に呑ませる行為は客観的に見て死の結果を招く危険性が高い行為といえる。たまたま当該毒物の純度が低かったという事情は、実行行為時に存在した客観的な危険性を否定するものではない。したがって、結果が発生しなかったのは偶発的な事情によるものであり、不能犯にはあたらない。
結論
被告人の行為は不能犯ではなく、殺人未遂罪が成立する。したがって、本件上告は棄却されるべきである。
実務上の射程
不能犯と未遂犯の区別において、客観的な危険性の有無を重視する「客観説(具体的危険説的アプローチ)」を示唆する判例として、答案上では未遂の実行着手・危険性の判断において引用できる。
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事件番号: 昭和26(あ)1377 / 裁判年月日: 昭和27年6月19日 / 結論: 棄却
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