原判示のごとく、いやしくも覚せい剤の製造を企て、それに用いた方法が科学的根拠を有し、当該薬品を使用し、当該工程を実施すれば本来覚せい剤の製造が可能であるが、ただその工程中において触媒として使用せる或る種の薬品の量が必要量以下であつたため、成品を得るに至らず、もしこれを二倍量ないし三倍量用うれば覚せい剤の製造が可能であつたと認められる場合には(原判決参照)被告人の所為は覚せい剤製造未遂犯をもつて論ずべく、不能犯と解すべきではない。
覚せい剤製造未遂犯の成立する事例。
刑法43条,覚せい剤取締法15条1項,覚せい剤取締法41条1項3号,覚せい剤取締法41条3項,覚せい剤取締法41条の2
判旨
覚せい剤製造を企て、科学的根拠のある方法を用いたが、使用した薬品の量が不足したために成品を得られなかった場合であっても、必要量を用いれば製造が可能であったといえるときは、不能犯ではなく未遂犯が成立する。
問題の所在(論点)
科学的根拠のある方法で犯罪の実行に着手したが、材料の不足という偶然の事情により結果が発生しなかった場合に、未遂罪(覚せい剤取締法違反の未遂)が成立するか、それとも不能犯として不可罰となるか。
規範
実行の着手が認められる行為であっても、結果発生が客観的に不可能であれば不能犯として不可罰となる。しかし、採用された方法が科学的根拠を有し、その工程を実施すれば本来結果の発生が可能である場合には、たまたま特定の材料(薬品等)の分量が不足していたために結果が発生しなかったとしても、客観的な危険性が否定されるものではないため、未遂犯として処罰される。
重要事実
被告人らは、覚せい剤の製造を企て、その製造工程に着手した。その際、被告人らが用いた製造方法は科学的根拠に基づくものであり、適切な工程・薬品を使用すれば覚せい剤の製造は可能なものであった。しかし、実際には工程中で使用したある種の薬品の分量が必要量に達していなかったため、成品を得ることができなかった。なお、当該薬品を2倍ないし3倍量使用していれば、覚せい剤を製造することが可能であったと認められる状況であった。
あてはめ
被告人らは覚せい剤の製造を企てており、その方法は科学的根拠を有するものであった。また、当該工程に従って当該薬品を使用すれば本来は製造が可能であったといえる。本件で成品を得られなかったのは、単に使用した薬品の量が必要量以下であったという量的な不足に起因するものであり、これを適正量(2倍ないし3倍)に増やせば製造が可能であったとされる。そうであれば、行為時に結果発生の具体的な危険性が認められるため、本件行為を不能犯と解することはできない。
結論
被告人の所為は覚せい剤製造の未遂罪を構成し、不能犯とはならない。
実務上の射程
本判決は、手段や対象の不備により結果が発生しなかった場合の「不能犯と未遂犯の区別」に関する基準を示している。特に、科学的に妥当な方法を選択している限り、材料の不足等の補充可能な事情による失敗は、結果発生の危険性を否定せず未遂犯とする実務上の準拠枠組みとなる。
事件番号: 昭和29(あ)4015 / 裁判年月日: 昭和31年10月16日 / 結論: 棄却
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【結論(判旨の要点)】致死量に相当する毒物を与えて殺害を試みた場合、毒物の純度が低かったために死の結果が発生しなかったとしても、不能犯とはならず殺人未遂罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人は被害者らに対し、殺意をもって青酸加里粉末約0.06g乃至0.07gを服用させた。しかし、当該青酸加里の純度が低かったこと、被害…