判旨
控訴審において、第一審判決が認定していない事実(期待可能性の欠如等)について、裁判所が当然に職権で調査すべき義務を負うものではない。
問題の所在(論点)
被告人に期待可能性がなかったという事実(第一審未認定)について、控訴審裁判所は職権で調査を行う義務を負うか。
規範
控訴審は事後審的性格を有する。したがって、第一審判決が認定していない事実(適法な行為に出ることを期待し得ない事情等)に関し、控訴審裁判所が当然に職権をもって調査すべき義務を負うものではない。
重要事実
被告人は第一審で懲役1年6月及び罰金3万円の判決を受けた。これに対し被告人側は、本件犯行が第三者からの脅迫に基づくものであり、期待可能性がなかったと主張して上告した。しかし、当該事実は第一審判決では認定されておらず、控訴審(原審)においても職権による調査は行われなかった。
あてはめ
本件において、被告人側が主張する「朝鮮人の脅迫に基づく犯行であり期待可能性がなかった」という事実は、第一審判決において認定されていない。控訴審は第一審判決の当否を審理する場であり、第一審で示されなかった新たな事実関係について、裁判所が自ら進んで職権調査を行うべき法的義務は認められない。したがって、職権調査を怠ったことが憲法違反や違法となることはない。
結論
控訴審裁判所に職権調査の義務はなく、第一審が認定していない事実を調査しなかったとしても違法ではない。
実務上の射程
刑事訴訟法上の控訴審の構造(事後審)を前提とし、控訴審における職権調査(刑訴法392条参照)の任意性を確認する場面で活用できる。弁護人が第一審で主張しなかった新事実を控訴審で唐突に持ち出した際、裁判所の調査義務を否定する根拠となる。
事件番号: 昭和25(あ)2637 / 裁判年月日: 昭和27年7月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】控訴裁判所は、控訴趣意書に包含されない事項について調査しなかったとしても、職権調査規定である刑事訴訟法392条2項に違反するものではない。したがって、控訴審で主張しなかった事項に基づき、上告審で原判決の法令違反等を主張することは適法な上告理由にならない。 第1 事案の概要:被告人側は、第一審判決の…
事件番号: 昭和28(あ)2586 / 裁判年月日: 昭和30年3月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑事訴訟法392条2項が規定する職権調査事項について、控訴裁判所は自ら調査することができるが、これを行うべき法的義務を負うものではない。 第1 事案の概要:被告人が量刑不当などを理由に上告した事案。上告趣意において、控訴裁判所(原審)には刑事訴訟法392条2項に基づき職権で調査すべき事項があったに…
事件番号: 昭和25(れ)1618 / 裁判年月日: 昭和26年3月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】上告審において初めて主張された、原審が認定していない事実に基づく緊急避難の主張は、適法な上告理由とはならない。 第1 事案の概要:被告人A漁業会代表者等による犯行について、原審では緊急避難(刑法37条)の主張はなされておらず、原判決においてもその前提となる事実は認定されていなかった。被告人側は、上…
事件番号: 昭和26(れ)973 / 裁判年月日: 昭和26年11月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】事実誤認や量刑不当の主張は、刑事訴訟法上の適法な上告理由に当たらない。また、職権による判決破棄事由が認められない限り、上告は棄却されるべきである。 第1 事案の概要:被告人Aおよび弁護人は、第一審・控訴審の判断に対し、事実誤認および量刑不当を理由として上告を申し立てた。弁護人は憲法違反も主張してい…
事件番号: 昭和26(れ)1916 / 裁判年月日: 昭和27年1月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人が公判で事実を認め、強制や拷問の主張を一度も行わずに上告審で初めてこれを主張する場合、原審が特段の判断を示さなかったとしても違憲や審理不尽の違法はない。 第1 事案の概要:被告人は、昭和23年に玄小麦の輸送に関わる事案で起訴された。第一審および控訴審において、被告人は公判廷で事実を自認し、何…