判旨
起訴状に記載された詐欺の被害金額が、代金と奨励金の合計額として特定されている場合、裁判所がその内訳や性質の解釈を検察官の主張と異ならせて認定しても、不告不理の原則には反しない。
問題の所在(論点)
検察官が「代金と奨励金の合計額」の騙取として起訴した事実に対し、裁判所がその金額の範囲内で内訳や性質の解釈を異ならせて認定することが、不告不理の原則に反し刑事訴訟法378条3号(判決が起訴のない事実に及ぶこと)に該当するか。
規範
起訴状に記載された犯罪事実の同一性の範囲内において、裁判所が被害金の目的や性質について検察官と異なる法的評価や事実認定を行うことは、起訴のない事実について有罪を言い渡すもの(刑事訴訟法378条3号違反)には当たらない。
重要事実
検察官は、被告人らが早期供出米の「代金」と「奨励金」を騙取しようと企て、これらが不可分に結合した合計約89万1299円を騙取した事実で起訴した。これに対し、第一審判決は「供出米代金並びに供出報奨金」の合計額を騙取したと認定し、原審もこれを是認した。弁護人は、起訴事実と認定事実における騙取金の性質が異なり、起訴のない事実について有罪とした違法があると主張した。
あてはめ
本件起訴状では、奨励金と代金が不可分に結合した合計約89万1299円の騙取事実が記載されている。第一審の認定は、騙取の目的や金員の性質(代金か報奨金か)について検察官と見解を異にしているに過ぎず、対象となっている金銭的被害の事実自体は起訴事実の範囲内に留まっている。したがって、審判対象の同一性を逸脱した事実認定とはいえない。
結論
騙取の目的や金員の性質について検察官と見解を異にしただけであり、起訴のない事実について有罪の判決をした違法は存しない。
実務上の射程
訴因の特定と認定のズレに関する判例。被害金額の総計が同一であり、その内訳や法的性質(名目)の解釈が異なる程度であれば、被告人の防禦に実質的な不利益を与えない限り、訴因変更の手続きを経ずとも裁判所は独自の認定が可能であるとの理屈を補強する際に活用できる。
事件番号: 昭和24(れ)1921 / 裁判年月日: 昭和27年12月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】数個の公文書が同時に偽造された場合や、偽造と行使が牽連関係にある包括一罪等の関係にある場合、その一罪の一部について起訴があれば、起訴状に直接記載のない残余の部分についても当然に審判の範囲に属する。 第1 事案の概要:被告人らは、公文書を偽造し、これを行使して貨物係員を欺き、タイヤ等を騙取したとして…
事件番号: 昭和29(あ)3383 / 裁判年月日: 昭和30年3月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】第一審で適法になされた追起訴、公訴取消し、訴因変更等を経て判決が下された場合、被告人側が異議を述べず手続が進んだ以上、上告審においてこれを訴訟法違反と主張することはできない。 第1 事案の概要:被告人は詐欺及び同未遂等の罪で起訴された。第一審の手続において、検察官による追起訴や訴因・罰条の追加、変…
事件番号: 昭和27(あ)4600 / 裁判年月日: 昭和28年8月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】先行する犯罪の収益分配ではなく、その発覚を防止する目的でなされた別個の行為については、社会通念上も経験則上も別個の犯罪事実として認定することが可能である。 第1 事案の概要:被告人Cは、第一審判決において判示された第十の事実と、第二十一の内D関係の事実が、実態としては単一の社会的事実であると主張し…