判旨
憲法18条にいう「奴隷的拘束」とは、人格を無視し、その意思にかかわらず束縛する状態に置くことを指し、占領軍の財産を所持する行為を処罰することはこれに当たらない。また、共同審理を受けていない共犯者の供述は、それだけで直ちに証拠能力を欠くものではない。
問題の所在(論点)
1.占領軍物資の所持を処罰することが、憲法18条の禁止する「奴隷的拘束」に当たるか。2.共同審理を受けていない共犯者の供述に独立した証拠能力が認められるか。3.被告人の家族の前科を論告で言及することが、直ちに量刑上の違憲・違法を招くか。
規範
憲法18条が禁止する「奴隷的拘束」とは、人格を無視し、その者の意思に反して身体や活動を束縛する状態に置くことを意味する。特定の物資の所持を禁ずる処罰規定は、人格の否定を伴う身体の不当な拘束には該当しない。また、証拠法上、共同審理を受けていない共犯者の供述は、独立した証拠能力を有し、憲法38条3項の自白のみによる処罰禁止の原則に反しない。
重要事実
被告人が占領軍(進駐軍)物資を所持していたことが法令に抵触し、起訴された。弁護人は、単なる占領軍財産の所持を処罰することは日本人を奴隷の境遇に置くものであり、憲法18条に違反して無効であると主張した。また、検察官の論告において被告人の夫の前科に言及されたことが不当な量刑に影響した点や、共犯者の供述の証拠能力についても争点となった。
あてはめ
まず、憲法18条の「奴隷的拘束」とは人格無視の身体束縛を指すところ、占領軍物資の所持禁止という一般的事務の規制は人格を否定するものではない。次に、証拠能力については、共同審理外の共犯者は第三者の立場にあるため、その供述は完全な独立の証拠能力を有する。最後に、検察官による夫の前科への言及は、被告人の「違法の認識(故意)」を補強する趣旨であり、実刑の根拠や量刑への不当な影響を及ぼしたものとは認められない。
結論
被告人の上告を棄却する。占領軍物資の所持処罰は憲法18条に違反せず、共犯者の供述を証拠とした原判決に違憲・違法はない。
事件番号: 昭和26(あ)284 / 裁判年月日: 昭和28年2月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法上の「所持」の概念については、物の事実上の支配を意味するものであり、原審の解釈に誤りはない。また、被告人の主張する免責事由が認められない以上、当該所持行為を罰することは正当である。 第1 事案の概要:被告人は軍票(軍用手票)を所持していたとして起訴された。被告人は、当該軍票を所持するに至った経…
実務上の射程
憲法18条の「奴隷的拘束」の定義を示す基本的判例。人身の自由に関する論点で、単なる不利益な行政規制や刑事罰が人格否定を伴わない限り同条違反にならないことを論じる際の規範として機能する。また、共犯者の供述の証拠能力(38条3項の補強証拠の要否等)の前提知識としても重要である。
事件番号: 昭和23(れ)956 / 裁判年月日: 昭和24年5月18日 / 結論: 破棄差戻
一 一事不再審の原則は判事判決の既判力の一作用に外ならない。元來判決の既判力というものは一旦判決によつて一定の法律關係(刑罰權又は私權等)の存否が確定された以上原則として、爾後は法律上有効にこれを變動せしめないということをその本質とするのである。 二 民事においては裁判所は判決により確定された法律關係については、その判…
事件番号: 昭和25(れ)1767 / 裁判年月日: 昭和26年3月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法上の「所持」とは、対象物を自己の事実上の支配内におくことを意味し、その具体的態様まで判示する必要はない。また、刑の執行猶予を付すか否かは事実審裁判所の広範な自由裁量に属する。 第1 事案の概要:被告人は、昭和22年政令165号に違反する罪(具体的な対象物は判決文からは不明)に問われた。一審およ…
事件番号: 昭和23(れ)775 / 裁判年月日: 昭和24年4月9日 / 結論: 棄却
論旨は、政令の公布後短日月なること等より當時被告人は、當該行爲が法令上禁止せられているとの意識がなかつたと主張するのであるけれども法の不知は犯罪の違法性を阻却するものでないことは刑法の規定するところであつて、かりに被告人が具體的にいかなる法令によつてその行爲が禁止せられているかを知らなかつたとしても既に前段説明のごとく…
事件番号: 昭和25(あ)1737 / 裁判年月日: 昭和27年3月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】占領軍財産の不法所持を処罰する政令は、施行前から正当な権限なく所持する行為が占領目的に有害な行為として処罰対象であった以上、事後的な権利侵害には当たらない。また、正当な権限に基づく所持は施行後も違法とされないため、当該政令は憲法に違反しない。 第1 事案の概要:被告人らは昭和22年政令第165号(…