一 横領罪は自己の占有する他人の物を自己に領得する意思を外部に発現する行為があつたときに成立するものである。そしてその不法領得の意思を発現する行為は必ずしもその物の処方のような客観的な領得行為たることを要せず、単に領得の意思をもつて為した行為たるをもつて足るのである。 二 鉄砲等無許可所持の罪は銃砲等所持禁止令第一条の規定に違反し許可を受けずして鉄砲等を所持することによつて直ちに成立する罪であり(同令第二条)たとえ判示の刀劍につき後にその保管の許可された事実があつたとしても所定の期間内にその許可申請がなされたことが認められない以上その許可は犯罪の成否には関係がないものというべきである。
一 横領罪の成立に必要な不法領得の意思を発現する行為の意義 二 銃砲等所持禁止令における所持許可申請期間内の申請を欠く刀劍所持の適否−後に保管を許可された場合
刑法252条,銃砲等所持禁止令1条1項,銃砲等所持禁止令附則2項
判旨
横領罪における「不法領得の意思」は、自己の占有する他人の物を自己に領得する意思を外部に発現する行為があれば認められ、必ずしも目的物の処分等の客観的な領得行為を必要としない。単に領得の意思をもってなされた行為があれば、横領罪は成立する。
問題の所在(論点)
横領罪の成立要件である「不法領得の意思の発現」として、贈与等の具体的処分に至らない「蔵置」や「手続の不履行」といった不作為的態様が、外部への発現行為として認められるか。
規範
横領罪(刑法252条、253条)における「不法領得の意思」の実現(行為)は、自己の占有する他人の物を自己に領得する意思を外部に発現する行為があったときに認められる。その表現行為は、必ずしも物の処分のような客観的な領得行為であることを要せず、単に領得の意思をもってなされた行為であれば足りる。
重要事実
事件番号: 昭和24(れ)2075 / 裁判年月日: 昭和25年9月22日 / 結論: 棄却
被告人は農業の傍、Aに頼まれて、判示建物の管理を業としていたものであり、しかも、自己が管理占有していた右建物を不法にも自己の物とすることを決意し、判示のごとき僞造文書を利用して、右建物の所有者Aに對して、判示のごとく自己の所有權を主張し、所有權移轉登記を求める旨の民事訴訟を提起し、よつて、被告人は右建物を自己の物とする…
被告人Aは、Eから刀剣2振(脇差および太刀)につき、銃砲等所持禁止令に基づく保管許可申請手続を頼まれてこれを受領した。Aはこれらを博物館の蹴込に置いて保管中、自らの物として日頃交際する警察官に贈与する目的で、あえて所定の期日までに申請手続を行わず、以後、擅(ほしいまま)に自己のために同所に蔵置し続けた。
あてはめ
被告人が受託した保管許可申請という任務をあえて放置し(不作為)、贈与という自己の利得を目的として刀剣を自己のために蔵置し続けた行為は、委託の趣旨に反して自己の所有物として振る舞う意思を外部に示したものといえる。客観的な処分(現実の贈与)が未遂であっても、領得の意思をもってなされたこれら一連の行為により、不法領得の意思が外部に発現されたと評価される。
結論
被告人には不法領得の意思を表現する行為があったと認められ、横領罪(業務上横領罪)が成立する。
実務上の射程
横領罪における「領得行為」の概念を広く解釈した重要判例である。答案上では、売却や消費といった明確な処分行為がない事案において、返還拒否や隠匿、あるいは本件のような「自己のためにする蔵置」を領得行為として認定する際の根拠として活用する。
事件番号: 昭和26(れ)2353 / 裁判年月日: 昭和27年3月6日 / 結論: 棄却
横領罪の成立に必要な不法領得の意思とは他人の物の占有者が委託の任務に背いてその物につき権限がないのに所有者でなければならないような処分をする意思をいうのであつて、必ずしも占有者が自己の利益取得を意図することを必要とするものではない(判例集三巻三号二七六頁以下参照)。しかるところ、所論原審認定の事実によれば、被告人等は共…
事件番号: 昭和25(あ)3297 / 裁判年月日: 昭和27年12月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】横領罪における「領得」とは、不法に領得する意思が外部に表現される行為を指し、会社倉庫から薬品類を不法に持ち出す行為はこれに該当する。 第1 事案の概要:被告人は、会社に勤務し同社の物品を管理・占有する立場にあったが、不法にこれを領得する意思をもって、会社倉庫内に保管されていた薬品類を無断で外部に搬…
事件番号: 昭和28(あ)3652 / 裁判年月日: 昭和30年4月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】業務上占有する他人の物を自己の利得のために処分する行為は、背任罪ではなく業務上横領罪を構成する。また、預金に際して実在する他人の氏名を使用したとしても、その名義人は虚無人とはいえない。 第1 事案の概要:被告人は、業務上の地位に基づき管理・占有していた金員を、自己の利益を図る目的で処分した(判示第…
事件番号: 昭和26(れ)1934 / 裁判年月日: 昭和26年12月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】横領罪における「横領」とは、不法領得の意思の発現とされるところ、業務保管中の物品をほしいままに売却する行為は、当然に横領の態様および事実を示すものと解される。 第1 事案の概要:被告人は、業務上保管していた物品(判示物品)を、所有者の承諾なく、ほしいままに第三者へ売却した。第一審判決は、この事実を…