判旨
判決書に「裁判官」と記載することは、判事や判事補等の総称として官名を表示したものと認められ、適法である。また、被告人の精神状態の認定にあたり、必ずしも精神鑑定を要せず、他の証拠に基づき心神耗弱と判断することも許容される。
問題の所在(論点)
1. 判決書に関与裁判官の官名として「裁判官」と記載することは、刑事訴訟法上の形式的要件を充足するか。2. 被告人の犯行当時の精神状態を認定するに際し、精神鑑定を経ずに他の証拠のみで判断することは許されるか。
規範
1. 判決書における裁判官の表示については、判事または判事補等の官名の総称である「裁判官」との記載があれば、官名を表示したものとして有効である。2. 被告人の責任能力の判断において、裁判所は必ずしも専門家による精神鑑定を経る必要はなく、引用した各証拠に基づき合理的に精神状態を認定することができる。
重要事実
第一審判決において、関与した裁判官の官名が単に「裁判官何某」と記載されていた。また、第一審裁判所は、被告人の犯行当時の精神状態について、専門家による精神鑑定を実施しなかったが、他の証拠を総合して心神耗弱の状態にあったと認定した。弁護人は、これらが判決書の形式的違法および審理不尽・事実誤認にあたるとして上告した。
あてはめ
1. 「裁判官」という用語は、判事や判事補など、裁判を行う官吏を包括する概念である。したがって、判決書に「裁判官」と記載することは「判事」等と記載することと同義であり、官名の表示を欠く違法はない。2. 責任能力の有無は法律判断であり、その前提となる精神状態の認定は、必ずしも鑑定という手段に限定されない。本件第一審が、鑑定を行わずとも他の証拠により心神耗弱と認定した判断に不合理な点はなく、適法な証拠調べに基づいたものといえる。
結論
本件判決書に「裁判官」と記載したことに違法はなく、また精神鑑定を行わずに責任能力を認定した点にも審理不尽の違法はない。したがって、上告を棄却する。
実務上の射程
判決書の形式的要件に関する実務上の解釈を示すとともに、刑事実務における責任能力の認定手法が裁判所の自由心証に委ねられていることを確認するものである。答案上は、精神鑑定の必要性が争点となる場面で、裁判所の合理的判断の裁量を肯定する根拠として引用し得る。
事件番号: 昭和22(れ)317 / 裁判年月日: 昭和23年7月6日 / 結論: 棄却
一 裁判所は人の精神状態を認定するのに必ずしも專門家の鑑定等による必要なく、他の證據によつて認定しても差支ない。 二 心神耗弱とか心神喪失とかいうことは刑事訴訟法第三六〇條にいう處の罪となるべき事實ではないから、これを認定した證據の説明をする必要はない。 三 所論改正刑法施行以前に第二審判決が爲された事件に付ては所論執…