一 入場税法(昭和一五年法律第四四号)第一六条第一項の逋脱犯の事実摘示として「昭和二二年一〇月一四日から同月二六日迄の間甲府税務署の検察済証印を受けない入場券を発売しその売上高を正規の帳簿に記入せず且つ入場税課税標準申告書に不正の記載をなして甲府税務署長に提出して入場税金二万五千二百円を逋脱し」と判示してあつても、不正の記載をした申告書を税務署長に提出したときに逋脱犯が成立した趣旨と解すべきではない。 二 右の事実摘示は逋脱犯既遂の事実摘示として理由不備の違法があるということはできない。 三 逋脱犯既遂の事実を摘示するにあたり、入場税課税標準申告書を提出した日時、入場税の納期、納付すべき税額と実際に納付した税額及びその差額を算定判示することは必ずしも必要ではない。
入場税法第一六条第一項の逋脱犯既遂の判示方
入場税法(昭和15年法律44号)6条の2,入場税法(昭和15年法律44号)6条の3,入場税法(昭和15年法律44号)16,入場税法施行規則6条,旧地方税法(昭和23年法律110号)151条,旧刑訴法360条1項
判旨
租税の逋脱罪は、不正の行為によって法定の納期までに税を納付しなかった場合に既遂となり、判示において脱税額が特定されている以上、正当税額と実納付額の差額までを個別に明示する必要はない。
問題の所在(論点)
租税逋脱罪の既遂を認定するにあたり、判決書において「申告書の提出日時」「正当な税額と実際の納付額との差額」といった詳細な事実までを具体的に判示する必要があるか。
規範
租税逋脱罪の成立には、「詐欺其ノ他不正ノ行為」の存在と、それによる税の「逋脱」(既遂)が必要である。既遂時期は、特段の行政的措置がない限り、法令の定める納期を経過した時点である。また、犯罪事実の特定としては、不正行為の内容および脱税額が明示されていれば足り、申告書の提出日時や、正当な税額と実際の納付額との差額を具体的に判示することまでは要しない。
重要事実
被告人は、昭和22年10月に検察済証印を受けない入場券を発売し、その売上高を正規の帳簿に記入せず、かつ虚偽の記載をした入場税課税標準申告書を税務署長に提出した。これにより、入場税2万5200円を法定の納期(翌月末日)までに納付せず、これを逋脱したとして起訴された。一審および二審はこれを通脱罪の既遂として処断したが、被告人側は、申告書の提出日時や正当税額との差額等の判示が欠けており、理由不備であるとして上告した。
あてはめ
本件において、被告人は未証印の券の発売や帳簿への不実記載、不正な申告書の提出を行っており、これらは入場税法16条1項の「不正ノ行為」に該当する。また、同法6条の3により納期は翌月末日と定められているところ、原判決が脱税額を認定し「逋脱した」と判示していることは、納期までに当該金額を納付しなかったという既遂の事実を確定したものと解される。証拠により脱税額自体が算定できる以上、その算出過程における正当税額と実納付額の差額を逐一判示しなくとも、犯罪事実に照らし必要十分な特定がなされているといえる。
結論
租税逋脱罪の既遂事実の摘示として、脱税額および不正行為の内容が示されていれば、申告日時や差額の詳細な判示がなくとも理由不備の違法はない。
実務上の射程
本判決は旧入場税法に関するものであるが、現行の所得税法や法人税法における逋脱罪の既遂時期および事実摘示の程度を検討する際の基礎となる。特に、納期限の経過をもって既遂となる点や、脱税額(逋脱額)の特定が判決構成上の核心となる点において、実務上の射程を有する。
事件番号: 昭和28(あ)1571 / 裁判年月日: 昭和30年2月15日 / 結論: 棄却
入場税法(昭和二三年法律第一一〇による廃止前のもの)第一六条第一項にいわゆる「詐欺其ノ多不正ノ行為ニ依リ入場税ヲ逋税セントシ」というのは、入場税の逋脱を目的とする行為に着手したが、まだ逋脱の結果が生じていないことを指称し、いやしくも入場税額を過少にする目的をもつて入場税の対象となるべき売上金の一部を別途金として取り除き…