判旨
鑑定の結論を導く詳細な理由説明が乏しい場合であっても、それが直ちに実験則に反するとまではいえず、他の証拠と総合して事実認定の資料とすることは許容される。また、証拠の取捨選択や証拠調べの限度の決定は、原則として事実審の裁量に属する。
問題の所在(論点)
鑑定において具体的な判断理由の説明が不十分な場合に、これを証拠として採用することが許されるか。また、再鑑定の申請を却下し、既存の鑑定と他の証拠を総合して事実認定を行うことは適法か。
規範
鑑定の証拠能力および証明力については、鑑定のプロセスや理由説明が詳細でない場合であっても、その内容が実験則に背反すると認められない限り、証拠として採用し、他の証拠と総合して事実認定の資料とすることができる。また、再鑑定の要否を含む証拠調べの必要性の判断は、事実審裁判所の合理的な裁量に委ねられる。
重要事実
被告人は食糧管理法違反、公文書偽造等の罪で起訴された。原審は、被告人の筆跡と証拠物の筆跡が同一であるとする鑑定人Aの鑑定結果等を総合して有罪を認定した。これに対し弁護人は、Aの鑑定が同一筆跡と断定する具体的な根拠を詳述しておらず不十分であること、再鑑定の申請を却下した原審の判断が違法であること、さらに被告人の自白が強制されたものであること等を理由に上告した。
あてはめ
本件鑑定は、筆跡の形態、筆勢、使用インクの色彩等を対比考察しており、一々どの文字がどの点で同一かという詳細な説明を欠いてはいるものの、直ちに実験則に背反し採用し得ない内容とはいえない。また、原審は当該鑑定のみに依拠するのではなく、被告人の判事・予審判事に対する供述(強制の証跡なし)や、関係者の供述等の他の証拠と相まって総合的に認定している。このような証拠の取捨判断や、再鑑定を不要として証拠調べを打ち切る判断は、事実審の裁量権の範囲内にある。
結論
原審の事実認定および証拠調べの手続きに違法はなく、上告を棄却する。
事件番号: 昭和27(あ)6438 / 裁判年月日: 昭和28年4月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】共謀共同正犯の成否について、事実誤認の主張は刑訴法405条の上告理由に当たらないと判示し、原判決の判断を維持した。 第1 事案の概要:被告人がAらと共謀した事実、およびAに作成権限がない文書を作成した事実について、第一審および控訴審で認定された。弁護人は、Aには作成権限があったこと、および共謀の事…
実務上の射程
鑑定の証明力の評価に関する判例であり、鑑定書に詳細な個別的理由の記載がなくても直ちに証拠から排除されないことを示す。司法試験においては、証拠の証明力(自由心証主義)や、再鑑定の必要性(314条等に関連する証拠調べの裁量)を論じる際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和26(れ)1366 / 裁判年月日: 昭和26年11月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】上告趣意が原審の適法な事実認定を非難するにとどまる場合、憲法違反の主張はその前提を欠き、適法な上告理由とはならない。 第1 事案の概要:上告人は原審の事実認定が不当であると非難した上で、その誤った事実認定に基づく判決が憲法に違反するものであると主張して上告を申し立てた。 第2 問題の所在(論点):…
事件番号: 昭和25(れ)868 / 裁判年月日: 昭和25年12月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】証拠の援用において「判示同旨の供述」と示すことは、判示内容と異なる部分を証拠から除外する趣旨を含む。また、公務員の了解を得ていたとの主張があっても、客観的事実に基づき「ほしいままに」作成したと認定することは、裁判所の自由裁量に属する。 第1 事案の概要:被告人は、肥料配給公団に関連する証明書に書き…
事件番号: 昭和26(れ)330 / 裁判年月日: 昭和28年1月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】証拠調べの範囲および限度は、事実審裁判所の合理的な裁量に委ねられており、特定の証人の尋問請求を却下したとしても、直ちに違法となるものではない。 第1 事案の概要:被告人が詐欺等の罪に問われた事案において、第一審および原審(控訴審)は、弁護人が請求した証人の尋問を却下した。これに対し弁護人側は、詐取…