株式会社の代表取締役が、会社の自己に対する貸付金を記載した決算報告書の作成に関与し、決算内容を承知して会社に提出し、その際に個人としてもとくに異議を留保した事跡がないときは、右決算報告書に記載された自己の債務を承認したものと解するのが相当である。
株式会社の代表取締役が会社の自己に対する貸付金を記載した決算報告書を作成して提出した場合と右貸付金債務の承認
民法147条
判旨
会社の代表取締役が、自己の会社に対する債務が記載された決算報告書を作成・提出し、その内容を承知しながら異議を留保しなかった場合、消滅時効を中断させる「承認」にあたる。
問題の所在(論点)
会社の代表取締役が、会社に対する自己の債務が記載された決算報告書を作成・提出する行為が、民法上の「承認」に該当するか。
規範
民法152条1項(旧民法147条3号)の「承認」とは、時効の利益を受ける者が、時効によって権利を失う者に対してその権利の存在を認識していることを表示することをいう。この表示は黙示的であっても足り、相手方の権利を前提とした行動をとり、かつそれが客観的に外部から認識できる態様であれば承認と認められる。
重要事実
1. 会社の代表取締役Dは、会社から貸付けを受けていた(Dの会社に対する債務の存在)。 2. Dは、当該貸付金を負債として記載した決算報告書の作成に関与し、その内容を承知して会社に提出した。 3. Dは、決算報告書の提出にあたって、個人として特に異議を留保した事跡はなかった。 4. Dの相続人である上告人が、当該債務の消滅時効を主張した。
あてはめ
Dは会社の代表取締役として、自己に対する貸付金が明記された決算報告書の作成に関与し、その内容を正確に把握した上で会社に提出している。この際、個人として何ら異議を留保していない。かかる行為は、会社という債権者に対し、債務者が自らの債務の存在を明確に認識していることを表示したものと評価できる。したがって、代表取締役という資格で行った行為であっても、個人の債務についての承認としての性質を併せ持つといえる。
結論
Dは決算報告書に記載された自己の債務の存在を承認したものと解するのが相当である。よって、消滅時効は中断(更新)される。
実務上の射程
代表者が会社に対する債務を負っている場合、会社法上の義務として作成する決算書類への記載が、対外的な「承認」として機能することを示した。代表者個人としての地位と会社代表者としての地位を峻別せず、実態的な認識の表示を重視しており、同種の役員借入金等の時効中断を検討する際の標準的な判断枠組みとなる。
事件番号: 昭和46(オ)440 / 裁判年月日: 昭和50年12月25日 / 結論: その他
貸金請求訴訟の提起は、後訴の立替金請求訴訟と基本的事実関係が同一であつても、右立替金債権につき時効中断事由とならない。
事件番号: 昭和36(オ)1419 / 裁判年月日: 昭和38年1月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】取締役が会社に対して金銭を貸し付ける行為は、商法265条(現行会社法356条1項2号)にいう取締役と会社との間の取引に該当し、取締役会の承認を欠く場合は無効となる。 第1 事案の概要:上告人(取締役)が、被上告人(株式会社)に対して金銭を貸し付けた(本件貸付行為)。この貸付行為について、取締役会の…