賃貸人の承諾を得て甲地の賃借権を譲り受けた者が右承諾に附帯して自己の占有する乙地を明け渡す旨を約しながらその履行を怠つたときは、賃貸人は、右債務の不履行を理由に甲地の賃貸借契約を解除することができる(最高裁昭和四六年(オ)第五五五号同四八年三月六日第三小法廷判決・裁判集民事一〇八号三七一頁参照)。
土地賃借権譲渡の承諾に附帯して譲受人が負担した債務の不履行を理由とする土地賃貸借契約の解除が認められた事例
民法541条,民法601条
判旨
土地賃借権の譲渡承諾に際し、賃借人が別個の土地を明け渡す旨の合意をしながらその履行を怠った場合、それが賃貸借継続を著しく困難ならしめる不信行為にあたるときは、賃貸人は賃貸借契約を解除できる。
問題の所在(論点)
賃借権の譲受に際して付随的に合意された別個の土地(乙地)の明渡し義務の不履行が、主たる土地(甲地)の賃貸借契約を解除し得るほどの「信頼関係を破壊する不信行為」に該当するか。
規範
賃貸借契約において、賃借人に債務不履行がある場合でも、それが賃貸人と賃借人との間の信頼関係を破壊して、賃貸借の継続を著しく困難ならしめるに至らない不信行為といえない特段の事情があるときは、賃貸人は解除権を行使できない(信頼関係破壊の法理)。この判断に際しては、賃貸借契約そのものの違反に限らず、賃借権譲渡承諾に付随してなされた合意等の履行状況も、信頼関係を基礎付ける事情として考慮される。
重要事実
上告人(賃借人)は、訴外Dから甲地の賃借権を譲り受ける際、賃貸人である被上告人の承諾を得た。その承諾に附帯して、上告人は被上告人に対し、隣接する乙地を明け渡す旨を約した。しかし、上告人は乙地の明渡しを履行しなかった。そのため、被上告人は乙地明渡し合意の不履行を理由として、甲地の賃貸借契約を解除した。
あてはめ
上告人は、甲地の賃借権譲渡という利益を享受する前提として、乙地の明渡しという付随的義務を負うことを約している。このような経緯でなされた合意は、甲地賃貸借を継続する上での重要な信頼関係の基礎となっている。しかるに、上告人がこの付随的義務の履行を怠ったことは、単なる別契約の不履行にとどまらず、甲地賃貸借の継続を著しく困難ならしめる程度の不信行為にあたると評価される。したがって、賃貸人による解除は有効である。
結論
賃借権譲渡承諾の条件として合意された付随的義務の不履行は、賃貸借継続を困難にする不信行為にあたるため、賃貸人は甲地賃貸借契約を解除することができる。
実務上の射程
契約上の主たる義務違反ではない「付随的義務の違反」や「別個の合意の違反」であっても、それが当該賃貸借の信頼関係を基礎付けている場合には、解除原因となり得ることを示す。答案では、違反事実を信頼関係の破壊という観点から価値判断する際の材料として活用する。
事件番号: 昭和43(オ)34 / 裁判年月日: 昭和43年6月21日 / 結論: 棄却
(省略)
事件番号: 昭和41(オ)1073 / 裁判年月日: 昭和42年8月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃借人が賃貸人の承諾なく第三者に賃借物の転貸をした場合であっても、賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があるときは、賃貸人は民法612条2項に基づく解除権を行使できない。 第1 事案の概要:賃借人Bは、賃貸人である上告人Aの承諾を得ることなく、本件土地の一部を訴外Dに転貸した。この転…
事件番号: 昭和33(オ)518 / 裁判年月日: 昭和35年9月20日 / 結論: 棄却
一 借地法第一〇条の建物買取請求権が行使された場合、土地賃貸人は、特段の事情がないかぎり、右買取請求権行使以前の期間につき賃料請求権を失うものではないけれども、これがため右期間中は建物取得者の敷地不法占有により賃料相当の損害を生じないとはいい得ない。 二 借地法第一〇条の建物買取請求権が行使された後、建物取得者は買取代…
事件番号: 昭和37(オ)1165 / 裁判年月日: 昭和39年1月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃貸借契約の合意解除が認められない状況下で、転借人が賃貸人の承諾を得て賃借人(転貸人)に賃料を支払った場合、その支払は民法613条の趣旨に照らし、賃貸人に対する関係でも有効な支払として免責の効果が生じる。 第1 事案の概要:賃貸人(上告人)と賃借人(訴外D)との間の賃貸借契約が存続している状況にお…