土地賃借人が第三者に地上建物を賃貸して地代の支払をゆだね、その旨を賃貸人に通知することなく転居し、以後自ら土地の管理をせず、所在を明らかにしないまま八年以上を経過するなど、判示の事実関係の下においては、賃借人の行為は賃貸借当事者間の信頼関係を著しく破壊するものであって、賃貸人は、契約上の義務違反を理由として賃貸借契約を無催告で解除することができる。
土地賃貸借契約において賃借人が地上建物を賃貸して転居し所在を明らかにしないまま八年以上を経過したことなどが賃貸人に対する信頼関係を著しく破壊するとして無催告の解除が許容された事例
民法541条,民法601条
判旨
賃借人が、賃貸人と面識のない第三者に建物を賃貸して地代の支払を委ね、自らは所在を不明にしたまま管理を怠る行為は、土地賃借権の無断譲渡・転貸と同様の不利益を賃貸人に与える義務違反であり、信頼関係を著しく破壊するものとして解除が認められる。
問題の所在(論点)
賃借人が地代の支払を第三者に委ねて行方をくらまし、管理を一切行わない行為が、賃貸人に対する信頼関係を破壊する義務違反(民法541条、612条類推)に該当するか。
規範
賃貸借契約の解除には、賃借人の義務違反が信義則上、賃貸人との間の信頼関係を著しく破壊するに足りるものであることを要する。特に土地賃借権の無断譲渡・転貸に近い実態が生じている場合、賃貸人に与える不利益の程度を考慮し、契約の継続を困難にする背信的行為といえるかを判断すべきである。
重要事実
土地賃借人である上告人は、賃貸人(被上告人ら)と面識のない第三者Dに本件建物(借地上の建物)を賃貸し、地代の支払をDに委ねた。上告人は賃貸人に通知せず建物から退去し、自らの所在を明らかにしないまま約8年間にわたり土地の管理を放棄した。この間、賃貸人は上告人と地代増額等の協議を行うことができず、地代増額には訴えの提起を余儀なくされた。また、実際の地代はDが自己の負担で支払っていた。
事件番号: 昭和42(オ)785 / 裁判年月日: 昭和42年12月8日 / 結論: 棄却
賃貸借の目的たる土地が四四・七坪である場合に、うち二三・七坪が無断転貸された場合は、特段の事情がない限り、右転貸は背信行為にあたるから、賃貸借の解除は有効である。
あてはめ
上告人は、土地管理の責任を負いながら管理者指定の連絡もせず、長期にわたり所在不明となっており、賃貸人が契約上の協議を行う方途を遮断している。この状態は、地代が実質的に第三者Dの負担で支払われている事実と相まって、形式的には賃借権の譲渡・転貸ではないものの、賃貸人に与える不利益は無断譲渡・転貸(民法612条2項)の場合と実質的に同等であるといえる。したがって、単なる連絡不足を超えた重大な義務違反があり、賃貸人との信頼関係を著しく破壊するものと解される。
結論
本件土地賃貸借契約の解除は有効である。上告人の所為は信頼関係を著しく破壊する背信的行為に該当し、賃貸人は催告なしに(または本件事実関係のもとで)契約を解除することができる。
実務上の射程
賃借人の行方不明や第三者への事実上の管理委託が、無断譲渡・転貸の規定を直接適用できない場合であっても、「信頼関係破壊の法理」を用いて実質的に同様の不利益を根拠に解除を肯定する際の有力な論拠となる。答案上は、612条の直接適用が困難な事案での予備的・補充的主張として構成する際に有用である。
事件番号: 昭和25(オ)140 / 裁判年月日: 昭和28年9月25日 / 結論: 棄却
賃借人が賃貸人の承諾なく第三者をして賃借物の使用または収益をなさしめた場合でも、賃借人の当該行為を賃貸人に対する背信的行為と認めるにたらない本件の如き特段の事情があるときは、賃貸人は民法第六一二条第二項により契約を解除することはできない。(少数意見および補足意見がある。)
事件番号: 昭和41(オ)1073 / 裁判年月日: 昭和42年8月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃借人が賃貸人の承諾なく第三者に賃借物の転貸をした場合であっても、賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があるときは、賃貸人は民法612条2項に基づく解除権を行使できない。 第1 事案の概要:賃借人Bは、賃貸人である上告人Aの承諾を得ることなく、本件土地の一部を訴外Dに転貸した。この転…
事件番号: 昭和42(オ)657 / 裁判年月日: 昭和46年6月22日 / 結論: 棄却
宅地の賃借人が借地の一部について借地権を第三者に譲渡した場合において、右譲渡部分が約四二〇平方メートルの借地のうち最も価値の低い部分にあたる約七〇平方メートルにすぎず、賃借人が従来の事情から右譲渡につき賃貸人の承諾が得られるものと思い、その際の名義書替料として相当の金員を賃貸人に支払うことを予定していた等、判示のような…