罹災焼失した建物の賃借人が、賃貸人である土地所有者から、右建物の賃借に際して差し入れていた敷金の返還を受け、しかも新たに別の建物を賃借しながら、罹災焼失前の賃借建物の敷地面積の二倍を越える土地上に一方的に建物を建築して事実上右土地を占有したうえ、右土地について事後承諾を求める形でこれを不可分一体のものとして賃借の申出をしたなど判示の事実関係のもとでは、土地所有者は、建物所有の目的でみずから右土地を使用する必要がないときでも、右賃借の申出を拒絶することのできる正当な事由がある。
罹災都市借地借家臨時処理法二条に基づく賃借申出の拒絶の意思表示に正当事由があるとされた事例
罹災都市借地借家臨時処理法2条
判旨
罹災都市借地借家臨時処理法に基づく借地申出に対し、賃借人が従前の敷地範囲を大幅に超える土地を一方的に占拠し、事後承諾を求める形で申出を行った等の事情がある場合、土地所有者に自己使用の必要がなくとも「正当の事由」による拒絶が認められる。
問題の所在(論点)
従前の建物賃借人が、罹災都市借地借家臨時処理法2条1項に基づき、従前の敷地範囲を著しく超える土地について借地申出をした場合において、土地所有者が自ら使用する必要がないときでも、同条3項の「正当の事由」が認められるか。
規範
罹災都市借地借家臨時処理法2条3項にいう「正当の事由」の有無を判断するにあたっては、土地所有者側の自己使用の必要性のみならず、借地申出に至る経緯、申出に係る土地の範囲と従前の賃借範囲との乖離、及び占有態様の正当性等の諸般の事情を総合的に考慮すべきである。
重要事実
上告人の先代(以下「A」)は、被上告人から床面積約10坪の建物部分を賃借していたが、戦災により焼失。Aは敷金の返還を受け別の建物を賃借したが、後に旧賃借部分の敷地(約13坪)を大幅に超える約30坪の土地上に建物を独断で建築し占有を開始した。その上でAは、当該30坪の土地を不可分一体のものとして同法2条1項の借地申出を行った。これに対し被上告人は期間内に拒絶の意思表示をしたが、被上告人自身には建物所有目的で土地を使用する必要性は認められなかった。
事件番号: 昭和28(オ)1091 / 裁判年月日: 昭和30年12月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】罹災都市借地借家臨時処理法に基づく敷地優先賃借申出権の発生には、罹災建物滅失当時に当該敷地を建物所有目的で使用していたことを要しない。また、同法10条は借地権者が罹災建物を所有していた場合にのみ適用される。 第1 事案の概要:上告人Aは、本件土地が罹災建物の敷地であったとして、罹災都市借地借家臨時…
あてはめ
Aは、罹災焼失後に敷金返還を受け別の住居を確保していたにもかかわらず、従前の敷地面積の2倍を超える土地を一方的に占拠した。その上で、事後承諾を求める形で当該広範な土地を一括して借地申出の対象としている。このような占有の開始及び申出の態様は、法の予定する合理的な利用調整の範囲を逸脱するものである。したがって、被上告人に自己使用の必要がないという一点をもって「正当の事由」を否定すべきではなく、A側の不当な占有態様を重視して拒絶を正当化すべきである。
結論
被上告人には同法2条3項所定の正当な事由があるものとして、借地申出を拒絶することができる。上告棄却。
実務上の射程
本判決は、法定更新や借地権発生における「正当事由」の判断において、当事者双方の「必要性」の比較のみならず、権利行使の誠実性や信義則的観点(占有開始の経緯や範囲の妥当性)が重要な判断要素となることを示している。特に特別法による強力な権利付与がなされる場面において、その濫用的な行使を制限する論理として活用できる。
事件番号: 昭和35(オ)904 / 裁判年月日: 昭和36年10月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】罹災都市借地借家臨時処理法2条に基づく優先賃借権の対象となる「敷地」には、建物の床面積相当分のみならず周囲の空地も含まれるが、現存建物の敷地と罹災建物の敷地が物理的に別個の部分である場合には、同条の適用はない。 第1 事案の概要:1. 賃貸人Eと賃借人D(後に上告人らが承継)との間で、一時使用目的…
事件番号: 昭和44(オ)1017 / 裁判年月日: 昭和47年2月10日 / 結論: 棄却
土地賃貸借契約成立の事情として、賃貸人は、当初、賃借人の借地申入れに対し、他人に土地を貸すときは回収が困難になるとして賃貸することに反対していたが、賃借人や仲介に入つた知人から、一時しのぎに僅かな土地でもよいし、何時でも取り払える仮小屋の建物でよいから」と執拗に懇請され、やむなくバラツク建物に限り建築を許す趣旨で、約六…
事件番号: 昭和41(オ)1259 / 裁判年月日: 昭和42年2月24日 / 結論: 棄却
賃料が数次にわたつて値上げされたことや賃料が当該借地の固定資産税を上廻つていることは、一時使用のための賃貸借契約であると認定するについて妨げとなるものではない。
事件番号: 昭和24(オ)360 / 裁判年月日: 昭和26年4月12日 / 結論: 棄却
一 罹災都市借地借家臨時処理法第三条が準用する同法第二条第一項但書にいわゆる権原により現に建物所有の目的で土地を使用する者とは、法律上何等かの権原に基いてその土地を現に使用している者を意味し、その土地につき借地権譲渡の申出権を有する罹災建物の借主があるか否か又何人であるかに関し、その権原者が善意であると否とを問わない。…