地代家賃統制令の適用のある土地賃貸借につき賃料増額請求がされた場合において、統制賃料額が適正賃料額を上回つており、賃貸人が従前統制額が比較的低額であつたころはこれをかなり超過する賃料を受領しており、また、増額請求後賃借人のした適正な賃料額の提案に応じなかつたなど判示の事情があるときは、増額された部分の賃料の不払を理由として賃貸人がした借地契約の解除は、権利の濫用として許されない。
地代家賃統制令に基づく土地の賃料の統制額が適正額を上回る場合において賃料増額請求により増額された部分の賃料の不払を理由とする借地契約の解除が権利濫用にあたるとされた事例
借地法12条1項,借地法12条2項,借地法等の一部を改正する法律(昭和41年法律第93号)附則8項,民法1条2項,民法1条3項,民法541条
判旨
地代家賃統制令上の統制額が適正額を上回る状況において、賃貸人が適正額を上回る統制額に基づき大幅な増額を請求し、賃借人の適正な提案を拒絶して自己の請求額に固執した上で、その差額の不払を理由に解除権を行使することは、信義則に反し権利の濫用として許されない。
問題の所在(論点)
地代家賃統制令の統制額の範囲内での賃料増額請求であっても、その額が客観的な適正額を著しく上回る場合、不足額の不払を理由とする賃貸借契約の解除は認められるか。
規範
賃貸借契約における解除権の行使は、形式的に債務不履行の要件を満たす場合であっても、契約当事者間の信頼関係を破壊するに足りない特段の事情がある場合や、行使の態様が信義則(民法1条2項)に反し、権利の濫用(同条3項)と認められる場合には、その効力は否定される。
重要事実
賃貸人Aは、建物所有目的でBに土地を賃貸していた。従前、双方は地代家賃統制令の適用を知らず、統制額を超過する賃料を授受していたが、昭和47年に統制額が大幅に引き上げられ、適正額をも上回る状況となった。Aはこれに乗じて月額約5.6万円への増額を請求したが、Bは適正額とされる月額約4万円(3.3㎡当り420円)を提案。Aは自己の請求額に固執して提案を拒絶し、従前の賃料(約3万円)のみを支払っていたBに対し、統制額に基づく不足分の催告を経て解除の意思表示をした。
事件番号: 昭和35(オ)53 / 裁判年月日: 昭和37年3月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法1条3項の権利濫用について、契約解除権の行使が権利の濫用にあたると解すべき根拠となる事実が認められない場合には、当該解除は有効である。原審が確定した事実関係の範囲内では、解除権の行使を不当とする事情がなく、権利濫用には当たらないとした判断を維持した。 第1 事案の概要:本件は契約の解除権行使の…
あてはめ
Aは、従前は統制額を超過する賃料を受領して利益を得ていた一方で、統制額が急激に増額され適正額を上回るや否や、これを利用して大幅な増額を求めている。Bから適正額に基づく歩み寄りの提案があったにもかかわらず、Aは合理的な理由なく自己の主張に固執してこれを拒絶した。このような状況下で、適正額を超える部分を含めた未払を理由に解除権を行使することは、それまでの経緯や当事者間の公平に照らし、誠実な権利行使の範囲を逸脱している。したがって、本件解除は信義則に反し、権利の濫用にあたると評価される。
結論
本件解除は権利の濫用として無効であり、賃貸借契約は終了しない。Aの上告は棄却される。
実務上の射程
賃貸人の解除権行使を信義則・権利濫用法理により制限した事例である。特に、法的な上限(統制額)の範囲内であっても、それが客観的な適正賃料を著しく超え、かつ賃借人の誠実な交渉を拒絶したような場合には、信頼関係の破壊が否定され、解除が制限されることを示している。実務上は、形式的な債務不履行のみならず、増額請求に至る経緯や金額の妥当性という具体的妥当性を検討する際の指標となる。
事件番号: 昭和35(オ)1353 / 裁判年月日: 昭和37年2月22日 / 結論: 棄却
供託した旨の主張中に、提供したけれども受領を拒絶された旨の主張が包含されているとはかぎらず、後者の主張を前提とするかどうかを釈明させる義務は裁判所にない。
事件番号: 昭和33(オ)657 / 裁判年月日: 昭和36年7月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃料の支払催告において、催告額が正当な額を超過していても、債権者に正当額の提供では受領しない意思が明確でない限り、正当額の限度で催告は有効である。 第1 事案の概要:賃貸人(被上告人)が賃借人(上告人)に対し、約1年分の延滞賃料として2万377円の支払を3日以内に催告した。しかし、当時の賃料統制額…
事件番号: 昭和42(オ)851 / 裁判年月日: 昭和43年6月27日 / 結論: 棄却
旧借地法第一二条(昭和四一年法律第九三号による改正前のもの)による地代増額請求権の行使による適正額の増額の効果は、増額請求の意思表示が相手方に到達した時に発生するものと解すべく、現行借地法第一二条第二、第三項が新設されても同条項施行前の増額請求については、同様に解すべきである。
事件番号: 昭和30(オ)860 / 裁判年月日: 昭和33年2月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃貸人が継続的に賃料の受領を拒絶している場合、賃借人が弁済の提供を継続しなくても、その後の賃料を供託することは有効であり、賃料不払による解除は認められない。 第1 事案の概要:賃借人(被上告人)は、昭和24年から26年の各年末に賃料を持参したが、賃貸人(上告人)はこれを受理せず返還した。さらに昭和…