借地法一〇条の建物買取請求権の成否を判断するにあたり、鑑定書に、借地権がない場合の建物の相当売買価額は零である旨の記載部分があつても、その理由としては、建物を解体撤去するのが妥当で、古材は解体費用に満たないとの記載があるにとどまり、かえつて、借地権があるとした場合の相当売買価額は七〇二万八〇〇〇円であり、借地権の価格は二九二一万一〇〇〇円である旨の記載があるなど判示の事情があるときは、右鑑定書を唯一の証拠として、特段の理由を説示することなく、建物を取引上無価値であると認め、建物買取請求権を否定するのは、借地法一〇条の解釈を誤つた結果、採証法則に違背し、ひいて理由不備、理由齟齬の違法がある。
借地法上の建物の取引価格が零であると認めて借地法一〇条の買取請求権を否定した認定判断が違法とされた事例
借地法10条,民訴法185条,民訴法395条1項6号
判旨
借地法10条(借地借家法13条)に基づく建物買取請求権における「時価」は、建物が存立の基盤となる土地の使用権原を有する者の所有となり、建物として存立し続けることができる状態を前提として算定されるべきであり、敷地権原を欠くことによる一般取引上の無価値を理由に請求を否定することはできない。
問題の所在(論点)
借地法10条(現行借地借家法13条1項)に基づく建物買取請求権の対象となる建物の「時価」を算定する際、敷地利用権がないことを前提とした一般の取引上の価値が零であることを理由に、買取請求を否定できるか。
規範
建物買取請求権における建物の価格(時価)とは、建物が現存する状態での建物自体の価格(再調達原価から減価償却を施した額)を指す。この算定にあたっては、買取請求権の行使により建物が敷地の使用権原を有する者の所有に帰し、建物としての存立を継続できる状態となることを前提とすべきである。したがって、敷地権原を欠くことを前提とした一般取引社会における客観的価値が零であるという事情のみをもって、直ちに買取請求権の成立を否定することはできない。
事件番号: 昭和39(オ)403 / 裁判年月日: 昭和40年7月13日 / 結論: その他
借地法第一〇条の買取請求の目的となつた数個の建物の時価を算定するについて、各建物の価格に差等を付する理由がないというだけで、それぞれ一定の場所的環境に存在することによつて帯有する価格の差等を斟酌しないのは違法である。
重要事実
借地人(上告人)は、建築から約40年経過した建物で医院を経営していたが、借地権の消滅に伴い建物買取請求権を行使した。原審は、鑑定書において「借地権がない場合の売買価格は0円(解体撤去が妥当)」とされていたことを根拠に、当該建物は取引上の価値を有せず買取請求権を認めるのは不適当として、賃貸人(被上告人)による建物収去土地明渡請求を認容した。しかし、同鑑定書によれば、建物は維持管理が良好で10年の残存耐用年数があり、借地権がある前提では約700万円の価値があるとされていた。
あてはめ
本件建物は、築40年を経過しているものの、医師である上告人が現に医院として使用しており、維持管理も良好でなお10年の残存耐用年数を有している。鑑定評価において「借地権がない場合に0円」とされたのは、建物自体の朽廃が理由ではなく、単に土地の使用権原を欠く以上は解体撤去せざるを得ないという消極的評価に基づくものにすぎない。しかし、建物買取請求権が行使されれば、建物は敷地権原を有する賃貸人の所有となり、建物としての存立を継続できる状態となるのであるから、存立基盤の欠如を前提とした無価値評価をそのまま採用して買取請求権の成立を否定した原審の判断は、借地法の解釈を誤ったものといえる。
結論
建物が物理的に存立し得ないほど朽廃していない限り、敷地権原の欠如のみを理由に建物買取請求を否定することはできない。本件における原審の判断には理由不備・理由齟齬の違法があり、破棄・差し戻しを免れない。
実務上の射程
借地借家法13条(旧借地法10条)の建物買取請求権の行使に関する規範である。答案上は、老朽化した建物の買取請求が拒絶された事案において、建物が「建物としての客観的価値」を有するか否かの判断基準(存立継続の前提)を論じる際に用いる。建物が物理的に朽廃している等の特段の事情がない限り、時価の多寡にかかわらず請求権自体は成立することを明示するのに有効である。
事件番号: 昭和43(オ)341 / 裁判年月日: 昭和47年5月23日 / 結論: 棄却
借地法一〇条による建物買取請求権が行使された場合におけるその買取価格の算定には、建物の存在する場所的環境を参酌すべきであり、そのためには、建物自体の価格のほか、建物およびその敷地、その所在位置、周辺土地に関する諸般の事情を総合考察することにより、建物が現存する状態における買取価格を定めなければならないものと解するのが相…
事件番号: 昭和33(オ)273 / 裁判年月日: 昭和33年11月27日 / 結論: 棄却
一 仮建築の建物を建てて使用するため、期間を一年とし、当事者協議の上更新し得る約で土地を賃貸したところ、賃借人が、無断で本建築をしたので、賃貸人から家屋収去土地返還の調停を申立てた結果、賃貸期間を調停成立以後約八年とし期間満了のとき賃借人所有の地上建物は賃貸人に贈与する旨の調停が成立した場合、右賃貸借は、一時使用のため…
事件番号: 昭和30(オ)750 / 裁判年月日: 昭和33年10月17日 / 結論: 棄却
木造建物が、その柱、桁、屋根の小屋組などの要部に多少の腐蝕個所がみられても、こちらの部分の構造にもとずく自らの力で屋根を支えて独立に地上に存立し、内部への出入に危険を感じさせることもないなど原審認定の状況(原判決理由参照)にあるときは、右建物は未だ借地法第一七条第一項但書にいう朽廃の程度に達しないものと解すべきである。
事件番号: 昭和43(オ)637 / 裁判年月日: 昭和44年4月15日 / 結論: 破棄差戻
建物所有を目的とする借地契約においては、その借地上の建物に対し通常の域をこえる大修繕をした場合には、その借地契約は、右建物が現実に朽廃していなくても、その修繕前の建物が朽廃すべかりし時期に終了するものと解すべきである。