土地の一部を目的とする賃貸借において、その契約の趣旨に適した部分が相当数あるときは、その賃借部分を特定して引き渡すべき賃貸人の債務には、選択債務に関する民法四〇六条以下の規定の適用がある。
土地の不特定の一部を目的とする賃貸借において賃借部分を特定して引き渡すべき賃貸人の債務と民法四〇六条以下の適用
民法406条,民法601条
判旨
土地の一部を目的とする賃貸借において、目的部分が具体的に特定されていない場合、その引き渡し債務は選択債務にあたり、特段の事情がない限り、債務者である賃貸人が選択権を有する。そのため、賃借人が賃貸人の意に反する部分に建物を建築した場合は、賃貸借契約上の義務違反を構成し得る。
問題の所在(論点)
土地の一部を目的とする賃貸借において、目的部分が特定されていない場合の法的性質および選択権の帰属。また、賃貸借の対象外とされる部分の占有権原の有無。
規範
土地の一部を目的とする賃貸借において、その契約の趣旨に適した部分が相当数あるときは、賃借部分を特定して引き渡す賃貸人の債務は選択債務(民法406条)にあたる。この場合の選択権は、原則として債務者である賃貸人に属する。また、所有権に基づく返還請求に対し、占有者が正当な占有権原を主張・立証しない限り、所有者の請求は認容される。
重要事実
上告人(賃貸人)は、所有する広大な土地(本件土地)のうち、一部(約100坪)を建物所有目的で被上告人(賃借人)に賃貸した。しかし、被上告人は上告人が主張する範囲外の部分にもまたがって建物を建築し、さらに賃料を滞納した。上告人は賃貸借契約の解除に基づき、建物の収去と土地全体の明け渡しを求めた。原審は、賃借部分が特定されていない以上、賃借人がどこに建物を建てても契約義務違反にならないとして、上告人の請求を棄却した。
事件番号: 昭和44(オ)1017 / 裁判年月日: 昭和47年2月10日 / 結論: 棄却
土地賃貸借契約成立の事情として、賃貸人は、当初、賃借人の借地申入れに対し、他人に土地を貸すときは回収が困難になるとして賃貸することに反対していたが、賃借人や仲介に入つた知人から、一時しのぎに僅かな土地でもよいし、何時でも取り払える仮小屋の建物でよいから」と執拗に懇請され、やむなくバラツク建物に限り建築を許す趣旨で、約六…
あてはめ
本件における土地の一部の賃貸借は選択債務にあたり、選択権は原則として債務者である上告人に属する。したがって、選択権者である上告人の意思に反して被上告人が建物を建築した行為は、賃貸借契約上の義務違反となる余地がある。また、上告人は本件土地全体の所有権を主張しており、賃貸借の対象(100坪)以外の部分については、被上告人が別途の占有権原を主張・立証しない限り、所有権に基づく明け渡し請求が認められるべきである。
結論
本件賃貸借は選択債務であり、原則として賃貸人が選択権を持つ。賃借部分が特定されていないことを理由に義務違反を否定し、また土地全体の所有権に基づく請求を検討せずに請求を全部棄却した原判決には、理由不備の違法があるため破棄・差し戻しを免れない。
実務上の射程
土地の一部賃貸借における「目的物の特定」をめぐる紛争において、選択債務の規定(民法406条以下)を適用する枠組みを示すものである。実務上は、賃貸借契約解除に基づく請求と、契約外の部分に対する所有権に基づく請求を区別して構成する際の指針となる。
事件番号: 昭和44(オ)26 / 裁判年月日: 昭和44年4月22日 / 結論: 棄却
従前の土地の一部の賃借人は、特段の事情のないかぎり、土地区画整理事業の施行者から、使用収益部分の指定を受けることによつて、はじめてその部分について、現実に使用収益をすることができる。
事件番号: 昭和45(オ)1003 / 裁判年月日: 昭和47年11月9日 / 結論: 棄却
否定(昭和三四年(オ)三二六号、同三六年三月七日第三小法廷判決・民集一五巻三号三六五頁参照)
事件番号: 昭和33(オ)704 / 裁判年月日: 昭和37年4月20日 / 結論: 破棄差戻
あまりにも約款の文言の文理解釈とかけはなれているのみならず、認定事実関係からうかがわれる当事者の真意にそわない原審の約旨の解釈は、到底人をして納得せしめるに足る十分の理由を備えたといえない。