頭部打撲創の受傷を契機として被害者に生じた症状につき、D病院、E病院、F病院の各専門医師が脳波検査、気脳写検査などを含む神経医学上の諸検査を経たうえ、頭部外傷後遺症ないし外傷性てんかんの診断を下しているなど判示の事実関係のもとでは、他に特段の事情のない限り、被害者に右受傷の結果頭部外傷後遺症ないし外傷性てんかんが生じたことを否定するのは、経験則に反する。
頭部に受けた打撲創の結果外傷性てんかんないし頭部外傷後遺症が生じたとは認められないとした認定につき経験則違背の違法があるとされた事例
民法709条,民訴法185条,民訴法394条
判旨
不法行為等による損害賠償請求において、特定の受傷と後遺症との間の因果関係の存否は、高度の蓋然性の証明を要するが、専門医による諸検査の結果や事故後の治療経過を総合し、他に特段の事情がない限り、当該因果関係を認めるのが経験則上相当である。
問題の所在(論点)
不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条、715条等)において、暴行による受傷(頭部打撲)と、その後に発症したとされる外傷性てんかん等の後遺症との間の相当因果関係が認められるか。
規範
不法行為に基づく損害賠償責任における相当因果関係の存否の判断については、特定の事実が特定の結果を引き起こしたことについて、経験則に照らして高度の蓋然性が認められる必要がある。専門的な医学的知見に基づく診断や客観的な検査結果(脳波検査、気脳写検査等)が存在し、かつ事故後の症状の推移に整合性が認められる場合には、他に特段の事情がない限り、当該因果関係を肯定すべきである。
重要事実
上告人(作業員)は、工場内でのトラブルから被上告人(班長)により暴行を受け、後頭部打撲(皮下腫脹)を負った。その後、上告人は頭痛や手足のしびれ等を訴え、複数の病院で脳振盪後遺症、外傷性てんかん等の診断を受け、脳波検査での異常律動や脳室の僅かな拡大・脳皮質の萎縮といった他覚的所見も記録されていた。しかし、原審は、上告人の主訴が心理的影響(心因性)による疑いがあることや、一部検査の信頼性に疑問があること等を理由に、受傷と後遺症との間の因果関係を否定した。
あてはめ
上告人を診断した各病院の医師は、単に主訴だけでなく、脳波検査や気脳写検査等の神経医学上の諸検査を経て診断を下している。カルテには脳皮質の萎縮や脳波の異常律動といった他覚的所見が具体的に記載されており、専門医も何らかの器質的障害の可能性を証言している。本件受傷を契機として一連の症状が出現し、治療が継続しているという事実関係を総合すれば、原審が挙げた「心因性の疑い」等の事情は、診断書の信頼性を否定する根拠として不十分である。したがって、他に特段の事情がない限り、本件受傷と外傷性てんかん等の後遺症との間には、経験則上、因果関係を認めるのが相当といえる。
結論
本件受傷と後遺症との間の因果関係を否定した原判決には、経験則違反および審理不尽の違法がある。特段の事情の有無についてさらに審理を尽くさせるため、原判決を破棄し、差し戻す。
実務上の射程
因果関係の証明度に関する判断枠組みを示すものである。特に、医学的因果関係が問題となる事案において、被害者の主訴だけでなく客観的な検査結果や専門医の診断、時系列的な経過を重視すべきという実務上の指針となる。答案上では、心因的要因が疑われる場合であっても、客観的証拠に基づき「特段の事情」がない限り因果関係を肯定する論法として活用できる。
事件番号: 昭和59(オ)43 / 裁判年月日: 昭和60年12月13日 / 結論: 破棄差戻
新生児が核黄疸による脳性麻痺に罹患したことにつき、担当医師が新生児に投与したリンコシンがビリルビン転送機能障害の副作用を有するネオマイシン系抗生物質に属し、右投与が黄疸を増強させたとの事実を認定して、医師の過失を肯定している場合において、リンコシンがネオマイシン系抗生物質に属することの証拠がない等判示の事実関係があると…