約五〇〇名が参加するデモ行進に対し警察機動隊員が規制・解除を繰り返し、デモ隊と機動隊の間で押し合い等があったなど判示のような事情がある場合、右デモ行進にグループ間の連絡等の役割で参加した者が路上に転倒し約四〇針縫合する左上口唇裂傷等の傷害を負った事故につき、機動隊員がどの程度の厚さの手袋を着用していたか、規制の解除によるデモ隊の急な前進によって背後かち突き飛ばされて右参加者が転倒したことがなかったかどうかについて判断を加えることなく、右参加者の負傷が機動隊員の一回の手拳による殴打行為に起因したものとした原審の認定には、経験則違反ひいては審理不尽、理由不備の違法がある。
デモ行進の参加者がこれを規制する警察機動隊員の殴打行為により負傷したとの認定に経験則違反、審理不尽、理由不備の違法があるとされた事例
国家賠償法1条1項,民訴法185条,民訴法394条,民訴法395条1項6号
判旨
国家賠償法1条1項の責任が認められるためには、公務員の職務上の行為と損害との間に相当因果関係が必要であり、特段の事情なく経験則に反する事実認定を行うことは審理不尽・理由不備として許されない。
問題の所在(論点)
国家賠償法1条1項の要件たる「職務を行うについて」行われた加害行為と、発生した損害との間の相当因果関係の存否。特に、経験則に照らして不自然な事実認定に基づく因果関係の肯定が許されるか。
規範
国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求において、公務員の加害行為と被害者の傷害との間の因果関係の存否は、証拠に基づき経験則に照らして合理的に判断されなければならない。直接の殴打行為による傷害の発生については、装着具(手袋等)の有無や厚さ、衝撃の程度と被害部位の整合性を具体的に検討すべきである。また、反論された別原因の可能性についても、反射的動作の有無等の予見可能性や力の大きさを踏まえ、経験則に基づき慎重に判断すべきである。
重要事実
デモ行進に参加していた被上告人が、整理にあたっていた機動隊員に抗議した際、同隊員から右手拳で左口唇部を一回殴打され、転倒して約40針を縫合する等の傷害を負った。一審・原審は、この殴打行為により傷害が生じたとして国賠法上の責任を認めた。しかし、当時の写真によれば機動隊員は手袋を着用していた可能性があり、また国側は「デモ隊に突き飛ばされて前のめりに転倒したことが原因である」と主張していた。
あてはめ
原審は、手袋着用の有無や厚さを検討せず、手拳による一回の殴打で40針縫合の裂傷が生じたと認定したが、これは経験則上合理的な疑いがある。また、被告側の「デモ隊に押されて転倒した」との主張に対し、原審は「前のめりなら反射的に手をつくはずだ」として否定したが、不意の衝撃であれば防護動作が間に合わないことも経験則上想定可能である。したがって、規制解除の状況等の事実関係を精査せずに因果関係を即断した原審の判断には、著しく合理性を欠く審理不尽があるといえる。
結論
機動隊員の殴打行為と傷害発生との間の因果関係について審理を尽くさせるため、原判決を破棄し、本件を原審に差し戻す。
実務上の射程
事実認定における経験則の適用が問われる事案である。答案上は、相当因果関係の立証において「証拠による裏付け」と「経験則上の合理性」が不可欠であることを強調する際に引用できる。特に、公務員の暴行と傷害の結果に乖離がある場合の反論(別原因の介在)の検討手法として有用である。
事件番号: 昭和29(オ)774 / 裁判年月日: 昭和31年11月30日 / 結論: 棄却
巡査が、もつぱら自己の利をはかる目的で、制服着用の上、警察官の職務執行をよそおい、被害者に対し不審尋問の上、犯罪の証拠物名義でその所持品を預り、しかも連行の途中、これを不法に領得するため所持の拳銃で同人を射殺したときは、国家賠償法第一条にいう、公務員がその職務を行うについて違法に他人に損害を加えた場合にあたるものと解す…