新生児が核黄疸による脳性麻痺に罹患したことにつき、担当医師が新生児に投与したリンコシンがビリルビン転送機能障害の副作用を有するネオマイシン系抗生物質に属し、右投与が黄疸を増強させたとの事実を認定して、医師の過失を肯定している場合において、リンコシンがネオマイシン系抗生物質に属することの証拠がない等判示の事実関係があるときは、右事実の認定は証拠に基づかない違法なものというべきである。
事実認定が証拠に基づかないものとして違法とされた事例
民訴法185条,民訴法257条
判旨
医療過誤における注意義務違反や因果関係の判断において、医学的知見に基づかない事実認定や、証拠上の根拠を欠く副作用の断定を行うことは、証拠によらない事実認定として違法である。
問題の所在(論点)
医療過誤訴訟において、専門的な医学的知見を要する事実(検査数値の評価や薬剤の副作用等)を、具体的な証拠に基づかずに認定することが許されるか。
規範
医療事故における診療契約上の債務不履行責任(または不法行為責任)を問う場合、医師の治療行為が当時の医学界において合理的なものとして是認されないこと(注意義務違反)及び、当該行為と損害との間の相当因果関係が必要となる。これらの事実認定は、単なる推測ではなく、具体的な医学的証拠(鑑定、文献、証言等)に基づき、論理的整合性をもって行われなければならない。
重要事実
上告人医院で出生した被上告人Bが、脳性麻痺(核黄疸起因)となった。原審は、①イクテロメーター値2.5から血清ビリルビン値12.11を認定し、これを生理的黄疸の限界値と判断した。また、②投与された抗生物質リンコシンを「ネオマイシン系」と認定し、ビリルビン転送機能障害の副作用により核黄疸を重症化させたと判断して、注意義務違反と因果関係を認めた。しかし、証拠によればイクテロメーター値2.5に対応する血清値は分散しており、またリンコシンがネオマイシン系に属する等の点も証拠上の裏付けを欠いていた。
あてはめ
原審はイクテロメーター値2.5から一律に血清ビリルビン値を断定したが、数値に分散がある以上、具体的な証拠による認定を欠く。また、生理的黄疸の範囲に関する文献の記述も誤植の疑いがある。さらに、リンコシンがネオマイシン系抗生物質であり黄疸増強の副作用を有するという点についても、記録上これを認めるに足りる資料は存在しない。したがって、これらの事実を前提とした核黄疸第一期の認定や、薬剤投与による重症化の認定は、証拠に基づかない違法なものであるといえる。
結論
原判決には証拠に基づかない事実認定および審理不尽の違法があり、結論に影響を及ぼすことが明らかであるため、原判決を破棄し、差し戻す。
実務上の射程
医療過誤における事実認定の厳格性を説いた事例。答案上は、因果関係や注意義務違反の認定において、薬剤の機序や検査値の解釈を「単なる可能性」で済ませず、証拠構造を精査する際の論理として活用できる。
事件番号: 昭和57(オ)1127 / 裁判年月日: 昭和63年1月19日 / 結論: 棄却
未熟児網膜症に対する治療法として光凝固法を実施することは、昭和四七年当時においては、臨床小児科医及び臨床眼科医にとつていまだいわゆる臨床医学の実践における医療水準になつていたとはいえない。 (補足意見がある。)