口頭弁論終結にあたつて当事者が他に主張立証はない旨述べたことは、唯一の証拠方法を取り調べることを要しない特段の事情にはあたらない。
唯一の証拠方法を取り調べることを要しない特段の事情にあたらないとされた事例
民訴法259条
判旨
当事者が申し出た証拠が主要事実を直接証明するための「唯一の証拠」である場合、裁判所は特段の事情がない限りこれを取り調べる義務を負い、採否を明示せず結審することは証拠法則の解釈適用を誤った違法となる。
問題の所在(論点)
当事者が申し出た「唯一の証拠」について、裁判所が採否を明示せずに弁論を終結し、これを取り調べないことが許されるか。特に、結審時の「他に立証なし」との発言が、証拠調べを不要とする「特段の事情」に該当するかが問題となる。
規範
裁判所は原則として証拠を採択するか否かの自由裁量を有するが、その証拠が争点となっている主要事実を立証するための「唯一の証拠」である場合には、特段の事情がない限り、これを取り調べる義務がある。また、口頭弁論終結時に当事者が「他に主張立証はない」と述べたことのみをもって、当該特段の事情に当たると解することはできない。
重要事実
上告人らは、本件土地について被上告人が完全な所有権ではなく共有持分を有するにすぎないと主張し、その事実を立証するために上告人本人の尋問を申し出た。この申出は当該主張に関する唯一の証拠方法であった。しかし、原審はこれに対する採否を明示することなく、第8回口頭弁論において当事者双方が「他に主張立証はない」と述べたことを受けて弁論を終結し、上告人らの請求を認容する判決を下した。
事件番号: 昭和37(オ)205 / 裁判年月日: 昭和37年11月20日 / 結論: 棄却
反証として当事者本人尋問の申請があつた場合において、当該申請について尋問事項書が提出されず、当該本人が裁判所の指定した尋問期日に出頭せず、かつ、その不出頭についての正当の事由が疎明されなかつたときは、当該本人が唯一の証拠方法であつても、裁判所は、必ずしも、これを尋問することを要しない。
あてはめ
本件における上告人本人尋問の申出は、土地の所有関係という主要事実に関する「唯一の証拠方法」であった。原審は、結審時に当事者が「他に主張立証はない」と述べたことを理由に、特段の事情があると判断した可能性がある。しかし、既に申し出ている証拠の採否が未定のままなされた定型的な発言は、既になされた証拠申出を撤回する趣旨とは解されず、取り調べを不要とする「特段の事情」には当たらない。したがって、原審が本件尋問を行わなかったことは、証拠の採否に関する裁量の範囲を逸脱している。
結論
唯一の証拠方法を取り調べなかった原審の判断には証拠法則の解釈適用の誤りがあり、判決に影響を及ぼすことが明らかであるため、原判決は破棄を免れない。
実務上の射程
民事訴訟法における自由心証主義の例外(証拠採否の裁量の制限)を示す重要判例である。答案上は、裁判所による証拠決定の違法を主張する場面で活用する。「唯一の証拠」とは、ある主要事実を証明する証拠がそれしかない場合を指し、既に他の証拠(書証等)で十分な心証が得られている場合は含まれない点に注意が必要である。
事件番号: 昭和35(オ)318 / 裁判年月日: 昭和37年6月8日 / 結論: 棄却
土地の貸借関係が賃貸借か使用貸借であるかが争点である事件において、貸主が同一人である係争土地の隣地の貸借関係が賃貸借であるからといつて、その故に直ちに係争土地の貸借関係を賃貸借と認定すべきではない。
事件番号: 昭和30(オ)136 / 裁判年月日: 昭和32年1月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】当事者が唯一の証拠として申請した本人尋問について、期日に正当な理由なく欠席し、その際代理人が他に立証はない旨を述べた場合には、証拠申請を放棄したものとみなされる。 第1 事案の概要:上告人は原審において抗弁事実を立証するため、唯一の証拠として上告人本人の尋問を申請した。裁判所はこれを許容し証拠調べ…
事件番号: 昭和45(オ)625 / 裁判年月日: 昭和45年12月4日 / 結論: 棄却
第一審において原告の請求が全部認容されたが、その控訴審において請求が減縮された場合において、原告の請求を相当とし、被告の控訴を理由がないと判断するときは、実質的に債務名義として有効に存続する部分を明確にするため、控訴判決の主文において、控訴を棄却したうえ、第一審判決を訂正し、減縮後の原告の請求自体につき認容する判決をす…