対価として土地一〇〇〇坪の譲渡を受けるという約定のもとに、自動車学校の用地の整地、練習用コース周囲の明渠の設置及び排水の諸工事を請け負つた者が期日までに約一〇分の二程度の工事しかせず、全工事完成の見込みがたたなくなつたので、注文者が残工事部分の打切りを申し入れるとともに、既に請負人に譲渡ずみの土地五〇〇坪全部の返還を要求しているなど判示の事情のもとにおいては、他に特別の事情がない以上、注文者は契約全部を解除する旨の意思表示をしたものと解するのが相当であり、残工事部分のみについての契約解除の意思表示をしたものと断定するのは相当でない。
整地請負契約における契約の一部解除の認定が相当でないとされた事例
民法541条,民法632条,民訴法185条
判旨
請負契約において、既施工部分のみでは契約の目的を達することができない場合、特段の事情がない限り、注文者の残工事打切りの申入れは、契約全部の解除を意味するものと解するのが相当である。
問題の所在(論点)
請負工事が中途で挫折し、既施工部分のみでは契約の目的を達し得ない場合において、注文者が行った残工事の打切り及び既払代償物の返還請求は、契約の全部解除と解すべきか、それとも一部解除にとどまると解すべきか。
規範
建物その他の土地の工作物以外の請負契約において、債務不履行を理由とする解除がなされた場合、既施工部分によって注文者が契約の目的を達することができないときは、特段の事情がない限り、残部のみならず契約全部の解除(民法541条等)が認められる。この場合、解除の意思表示の解釈にあたっては、工事残部の打切り申入れとともに給付済みの代償物の返還を求めているといった客観的状況を重視すべきである。
重要事実
請負人Bは、D社の注文により自動車学校用地の整地・排水工事等を請負い、完成期限を9月中旬とした。上告人はD社の報酬債務を重畳的引受し、支払に代えて本件土地を譲渡(代物弁済)し登記も移転した。しかし、Bは全工程の約2割を施工した段階で工事を中止。D社は催告したが完成の目処が立たないため、11月下旬に工事残部の打切りを申し入れ、同時に本件土地の全部返還を要求した。原審は、この解除を未完成部分のみの「一部解除」と認定し、既施工部分に対応する本件土地の譲渡は依然有効であると判断した。
事件番号: 昭和63(オ)115 / 裁判年月日: 平成2年9月27日 / 結論: 棄却
共同相続人は、既に成立している遺産分割協議につき、その全部又は一部を全員の合意により解除した上、改めて分割協議を成立させることができる。
あてはめ
本件において、Bによる既施工部分は全工程の2割程度にすぎず、その内容も準備作業や一部の土砂搬入等にとどまっており、これによってD社が契約の目的(自動車学校の開校)を達し得ないことは明らかである。また、D社代表者は工事残部の打切りを申し入れると同時に、代物弁済として譲渡していた本件土地の「全部」の返還を要求している。このような客観的事実に照らせば、特段の事情がない限り、D社の意思表示は契約全部を解除する趣旨であったと解するのが経験則に合致する。したがって、一部解除にとどまるとした原審の判断は妥当ではない。
結論
本件工事残部の打切り申入れは、契約全部を解除する意思表示と解するのが相当である。よって、解除の効果は既施工部分にも及び、本件土地の譲渡はその根拠を失う。
実務上の射程
工作物完成前の請負契約解除について、既施工部分に利益がない場合の全部解除の可能性を認めた射程を持つ。答案上は、解除の範囲(全部か一部か)が問題となる場面で、①既施工部分による目的達成の可否、②解除時の付随的な言動(返還請求の範囲等)を考慮要素として、意思表示の内容を解釈する際の規範として活用できる。
事件番号: 昭和41(オ)802 / 裁判年月日: 昭和46年12月16日 / 結論: その他
甲が乙に対して不動産を売り渡した場合において、所有権移転登記未了の間に、その不動産につき、丙のために売買予約を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記がなされたというだけでは、いまだ甲の乙に対する売買契約上の義務が履行不能になつたということはできない。
事件番号: 昭和49(オ)1202 / 裁判年月日: 昭和50年12月26日 / 結論: 棄却
土地の買主が、所有権移転登記をうけなかつたが申請手続の過誤により隣地につき所有権移転登記がされたためであり、土地の引渡はうけその使用をつづけた等判示の事実関係のもとにおいては、買受代金の支払について所有権移転登記手続との同時履行を主張することは信義則上許されない。
事件番号: 昭和49(オ)762 / 裁判年月日: 昭和49年12月17日 / 結論: 棄却
譲渡担保の被担保債権につき、その弁済期の頃、債権者、債務者、目的物件所有者の間において、右物件を処分し、その売却代金によつてこれを弁済する旨の合意が成立した場合においては、右処分未了の間、債務者は債務を弁済して譲渡担保権を消滅させることができる。