建物所有を目的とする土地賃貸借契約の更新につき土地所有者が自ら土地を使用する必要があるとして異議を述べ、これに対し借地権者が契約が更新されないときは建物の買取を請求する旨の意思表示をした場合において、建物買取後に土地所有者のなすべき建物賃貸借契約の解約申入につき正当事由が肯認されるかどうかは、右異議に関する正当事由の存否の判断において斟酌すべき事情とはならない。
建物所有を目的とする土地賃貸借契約の更新拒絶に正当事由があるかどうかを判断する場合において第三者である建物賃借人の事情を斟酌することの可否
借地法4条1項,借地法6条2項
判旨
借地契約更新拒絶の正当事由の判断において、法的拘束力のない行政上の再開発構想や、建物買取請求権行使後に生じる建物賃借人の居住継続等の事情を、賃貸人の必要性を減殺させる事情として考慮することはできない。
問題の所在(論点)
借地契約の更新拒絶における正当事由(借地借家法6条)の判断において、(1)未確定の行政上の再開発構想や、(2)将来発生し得る建物賃借人の事情を考慮することができるか。
規範
借地法4条1項但書および6条1項(現借地借家法6条)の「正当事由」は、賃貸人および賃借人が土地を必要とする事情を主たる要素として比較衡量すべきである。また、土地使用の計画の実行可能性を判断する際、法的拘束力のない将来の行政構想は、特段の事情がない限り、賃貸人の必要性を減殺させる事情とはならない。さらに、更新拒絶が認められた後に生じる建物賃貸借関係の成否という将来の仮定的な事情を、土地賃貸借の正当事由の判断材料とすることは、当事者間の比較衡量という枠組みを逸脱するものであり許されない。
重要事実
上告人(賃貸人)は、冷蔵倉庫業の拡充のため、本件土地に5階建冷蔵倉庫を建設する計画を立て、更新拒絶を申し入れた。これに対し、賃借人Dらは、自ら土地を使用せず建物を他に賃貸しており、明渡しにより年収の約4割を失うが、他に多額の役員報酬を得ていた。原審は、(1)本件土地付近が行政の再開発構想の防災拠点に予定されており、建築制限の公算が大きく計画の実現可能性が低いこと、(2)明渡しにより借家人が居住・営業上の支障を来し、建物買取請求権行使後の借家契約解除に正当事由を認めがたいこと等を理由に、正当事由を否定した。
事件番号: 昭和36(オ)1350 / 裁判年月日: 昭和37年11月13日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】借地法に基づく更新拒絶の正当事由の有無は、諸般の事情を総合的に考慮して判断されるべきであり、賃貸人の生活維持のために土地を使用する必要性等の個別事情は、正当事由を構成する一判断要素として認められる。 第1 事案の概要:土地の賃貸人である被上告人が、借地期間の満了に伴い更新拒絶を主張して土地の明け渡…
あてはめ
(1)江東再開発基本構想は現段階で単なるプランに過ぎず、法的拘束力がない。現状で建築が抑制されている等の特段の事情がない限り、上告人の使用の必要性や計画の実行可能性を否定する根拠にはならない。(2)建物賃借人の事情は、土地賃貸借の正当事由が認められた後に初めて生じる仮定的な問題である。これを土地賃貸借の判断に逆流させることは論理的に矛盾し、かつ第三者の事情を安易に参酌するもので不当である。したがって、これらを除外して賃貸人と賃借人の土地必要性を比較すれば、直ちに正当事由がないとは断定できない。
結論
原審が再開発構想や借家人の事情を考慮して正当事由を否定した判断には、正当事由の解釈を誤った違法があるため、破棄差し戻しを免れない。
実務上の射程
土地賃貸借の正当事由判断における「考慮要素の限定」を示した重要判例。答案では、計画の実現可能性に疑問を呈する事情があっても、それが確定的な法的規制でない限り賃貸人に有利に解釈する余地があること、また、土地賃貸人と借地人間の問題に借家人の事情を安易に混同させてはならないことを指摘する際に用いる。
事件番号: 昭和35(オ)850 / 裁判年月日: 昭和36年11月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】建物賃貸借の更新拒絶に必要な「正当な事由」の有無は、賃貸人および賃借人双方の利害得失を比較考量して判断すべきである。賃貸人が賃料受領を明確に拒絶しているなどの事情がある場合、更新拒絶を認めるに足りる正当事由があるとは認められない。 第1 事案の概要:賃貸人(上告人)が、賃借人(被上告人)に対し、建…
事件番号: 昭和34(オ)502 / 裁判年月日: 昭和37年6月6日 / 結論: 棄却
借地法第四条第一項は、憲法第二九条に違反しない。
事件番号: 昭和46(オ)846 / 裁判年月日: 昭和47年6月23日 / 結論: 棄却
土地の賃借人およびその経営する会社が他に営業の場所を有するに至つたときまたは爾後の営業の準備に通常要する期間を経過したときをもつて明渡期限と定めて、土地賃貸借が合意解約された場合において、賃貸人に対し賃借人がその所有の他の土地建物を買い受けてもらう必要から、判示のような経過で解約を承諾したものであるときは、右合意につき…
事件番号: 昭和36(オ)304 / 裁判年月日: 昭和36年9月7日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】借地法10条(現行借地借家法14条)に基づく建物買取請求権は、買取請求の意思表示の時点において、土地賃借権が有効に存在していることを要件とする。 第1 事案の概要:上告人A1及びA2が、被上告人所有の土地を賃借し、その地上に建物を所有していた事案において、賃料の支払をめぐる争い等により賃貸借関係の…