商品市場における売買取引の委託について預託された委託証拠金充用証券が、上場証券であつて、高度の流通性と代替性を有するものである場合には、特段の事情のない限り、預託の対象である特定の充用証券の返還が不能となつたときには同銘柄、同数量の他の有価証券をもつて返還すれば足りる旨の合意が黙示的にされているものと解すべきである。
商品市場における売買取引の委託について預託された特定の委託証拠金充用証券の返還が不能の場合と現物の返還
商品取引所法38条3項,商品取引所法79条2項,商品取引所法97条
判旨
商品取引員に預託された有価証券(充用証券)が流通性と代替性を有する上場証券である場合、特段の事情がない限り、同銘柄・同数量の他の有価証券による返還を許容する黙示的合意が認められる。
問題の所在(論点)
商品取引員に預託された特定の有価証券(充用証券)が返還不能となった場合において、同銘柄・同数量の代替証券による返還(代物返還的解決)が認められるか。特に、根質権の目的物である証券の代替性が、返還義務の履行方法にどのように影響を与えるかが問題となる。
規範
商品取引員に預託された充用証券の法律的性質は根質権の設定であり、債務が消滅すれば証券自体を返還すべきである。しかし、当該証券が上場証券であって高度の流通性と代替性を有する場合には、預託者が現物そのものの返還に特別の利益を有する等の「特段の事情」がない限り、当事者の合理的な意思解釈として、同銘柄・同数量の他の有価証券をもって返還すれば足りる旨の黙示的合意が認められる。
重要事実
委託者が、商品市場における売買取引の委託に際し、商品取引員に対して委託証拠金に代えて有価証券(充用証券)を預託した。本件で預託された証券は上場証券であり、市場において容易に取得可能な高度の流通性と代替性を備えるものであった。その後、預託された特定の証券自体の返還が不能となったため、同銘柄・同数量の別個の証券による返還の可否が争点となった。
あてはめ
本件の充用証券は上場証券であり、市場で取引される性質上、特定の紙片そのものに個性があるわけではなく、高度の流通性と代替性を有している。委託者において特定の証券そのものを手元に置くべき「特別の利益」があるといった事情も認められない。そうであれば、当事者の意思を合理的に解釈すれば、預託時と同一の価値・性質を有する同銘柄・同数量の証券が返還されれば委託者の目的は達せられると判断される。したがって、特定の証券が返還不能であっても、代替証券の提供により返還義務は履行されたものと解すべきである。
結論
特段の事情がない限り、同銘柄・同数量の他の有価証券をもって返還すれば足り、商品取引員は返還義務の不履行による責任を負わない。
実務上の射程
本判決は、質権等の目的物が代替性を有する場合の返還義務の範囲を合理的に限定したものである。答案上では、物の返還義務が問題となる場面で、目的物の代替性・流通性に基づき「当事者の意思の合理的解釈」として代替物による履行を肯定する際の論拠として活用できる。特に上場株式や標準化された金融商品の寄託・担保化の場面で射程が及ぶ。
事件番号: 昭和56(オ)1015 / 裁判年月日: 昭和57年11月16日 / 結論: 棄却
商品取引員が商品取引所法(昭和四九年法律第二三号による改正前のもの)九一条の二第一項の規定に違反して登録外務員以外の者をして先物売買取引委託契約を締結させても、右違反は、右契約の効力に影響を及ぼさない。