宗教法人における特定人の住職たる地位の存否が同人の当該宗教法人における代表役員、責任役員たる地位の存否の確認を求める請求の当否を判断する前提問題となつている場合には、裁判所は、当該宗教法人の教義等に照らして同人が住職として活動するのにふさわしい適格を備えているかどうかなどその宗教団体内部で自治的に決定せらるべき事項について判断するものでない限り、右住職たる地位の存否について審理判断する権限を有する。
宗教法人における特定人の住職たる地位の存否が同人の当該宗教法人における代表役員、責任役員たる地位の存否の確認を求める請求の当否を判断する前提問題となつている場合と住職たる地位の存否についての裁判所の審理判断の権限
裁判所法3条,憲法20条
判旨
宗教法人の代表役員たる地位の存否が争われる際、その前提として宗教活動上の地位である住職選任の効力を審理・判断することは、それが教義等に関する事項に及ばず、専ら手続上の準則に従ったか否かに関するものであれば、裁判所の審理権限に属する。
問題の所在(論点)
宗教法人の規則上、住職が当然に代表役員となる場合に、裁判所が代表役員の地位を判断する前提として「住職選任の効力」を審理・判断することは、政教分離及び宗教団体の自治の観点から許されるか(裁判所法3条1項「法律上の争訟」性の限界)。
規範
宗教活動は憲法上国の干渉からの自由を保障されており、宗教団体の内部関係については、本来自治によって決定すべき事項(特に宗教上の教義にわたる事項)に裁判所が立ち入ることは許されない。しかし、代表役員の地位の前提として住職の地位が争われる場合、当該選任が教義等に関する適格性の問題ではなく、専ら手続上の準則や慣習等の世俗的事項に関するものである限り、裁判所の審理の対象となる。
重要事実
宗教法人である上告人寺の規則では、住職が当然に代表役員兼責任役員となる旨が定められていた。被上告人が上告人寺の代表役員等の地位にあることの確認を求めたところ、被上告人が有効に住職に選任されたか否かが争点となった。上告人寺には住職選任に関する規則がなく、確立された慣習の存在も認められなかったため、原審は「条理」に従って選任手続の有効性を判断した。
事件番号: 平成8(オ)754 / 裁判年月日: 平成11年9月28日 / 結論: 棄却
宗教法人の代表役員及び責任役員の地位にあることの確認を求める訴えにおいて、紛争の経緯及び当事者双方の主張に照らせば、請求の当否を決する前提問題である住職罷免処分の効力の有無については宗教団体内部における教義及び信仰の内容が本質的な争点となるものであり、これを判断するには、裁判所が宗教上の教義及び信仰の内容について一定の…
あてはめ
本件における住職選任の効力に関する争点は、被上告人が住職として相応しい教義的適格を備えているかという宗教上の問題ではなく、専ら選任手続上の準則の存否及び内容に関する世俗的問題である。上告人寺には明文の規則や慣習が存在しないため、寺院の本質や特殊性に照らした「条理」に従って判断せざるを得ない。具体的には、檀信徒が密接な関係にある各末寺の意向を反映させつつ総意で選任したという手続は、条理に適合し有効である。このような判断は宗教的自治に対する不当な介入には当たらない。
結論
代表役員の地位の前提となる住職選任の効力について、それが純粋な手続上の準則に関する限り、裁判所はこれを審理・判断できる。本件選任は条理に適合し有効であるから、被上告人は代表役員の地位を有する。
実務上の射程
宗教団体の内部紛争において、事案が単なる教義の解釈に留まらず、具体的な権利義務(代表権の帰属等)の存否を目的とする場合は「法律上の争訟」に該当する。ただし、判断の前提として教義の核心に踏み込む必要がある場合には審理を拒否すべき(部分社会の法理、板まんだら事件参照)とされるが、本判決のように「選任手続」のみが問題となる場合は、世俗的な手続判断として審理が可能であるという限界線を示している。
事件番号: 昭和61(オ)531 / 裁判年月日: 平成5年9月7日 / 結論: 棄却
特定の者が宗教団体の宗教活動上の地位にあることに基づいて宗教法人である当該宗教団体の代表役員の地位にあることが争われている訴訟において、その者の宗教活動上の地位の存否を審理、判断するにつき、当該宗教団体の教義ないし信仰の内容に立ち入って審理、判断することが必要不可欠である場合には、右の者の代表役員の地位の存否の確認を求…
事件番号: 平成2(オ)1231 / 裁判年月日: 平成5年7月20日 / 結論: 棄却
宗教法人がその所有する建物の明渡しを求める訴訟において、訴訟が提起されるに至った紛争の経緯及び当事者双方の主張並びに訴訟の経過に照らして、当該訴訟の争点を判断するには、宗教上の教義ないし信仰の内容について一定の評価をすることを避けることができない場合には、右の明渡しを求める訴えは、裁判所法三条にいう「法律上の争訟」に当…
事件番号: 昭和61(オ)944 / 裁判年月日: 平成元年9月8日 / 結論: 棄却
甲が乙宗教団体から受けた擯斥処分によりその僧侶たる地位を喪失したか否かが、自己が乙の被包括宗教団体である丙の代表役員及び責任役員の地位にあることの確認を求める甲の請求の前提をなしている場合において、右処分の効力の有無が紛争の本質的争点をなすとともに、その効力についての判断が訴訟の帰すうを左右する必要不可欠のものであり、…