認知者が被認知者を不憫に思い、自分の子として認知の届出をし、長年自分の家業を手伝わせていたところ、認知者の実子が事実上の婿養子と結婚したころから被認知者と認知者、その妻、実子との間が円満さを欠くようになり、認知者の死亡直後、被認知者が家庭裁判所に対し、遺産分割の調停の申立をしたなどの判示の事実関係のもとでは、認知者の妻であり、かつ、被認知者の実母である者及び認知者の実子から被認知者に対してされた認知無効確認の請求は、それが認知後五十数年を経過し、かつ、認知者の死亡後であつても、権利の濫用にあたるとはいえない。
認知無効確認請求が権利の濫用にあたらないとされた事例
民法1条,民法786条,人事訴訟法27条
判旨
不真実な認知の届出から50年以上が経過し、かつ認知者の死亡後になされた認知無効確認請求であっても、身分関係を明確にする必要性があり、遺産分割等の事情により提起された場合には、信義則に反せず権利の濫用にも当たらない。
問題の所在(論点)
真実の親子関係がない認知がなされ、その状態が50年以上の長期間放置されていた場合において、認知者の死後にその親族が行う認知無効確認請求(人事訴訟法2条2号、民法786条参照)は、信義則に反し権利の濫用として却下されるか。
規範
認知は真実の親子関係がない限り無効であり、認知無効確認請求権は原則としていつでも、何人からでも行使し得るものである。もっとも、その行使が信義誠実の原則(民法1条2項)に反し、権利の濫用(同条3項)と認められる特段の事情がある場合には、請求が制限される余地がある。その判断にあたっては、長期間の放置、請求に至る経緯、身分関係を明確にする必要性、及び相手方の利益等を総合的に考慮すべきである。
重要事実
上告人は被上告人B1の実子であるが、B1の夫であるEが上告人を不憫に思い、大正9年に自らの子として虚偽の認知届を出した。その後、上告人はEの家族と共に暮らしていたが、昭和29年頃から他の家族との関係が悪化。昭和47年にEが死亡し、上告人が遺産分割の調停を申し立てたため、B1(妻)およびB2(子)は、認知から54年が経過した昭和49年に、上告人を相手として認知無効確認の訴えを提起した。
あてはめ
被上告人らが50年以上の間、不真実な親子関係を放置していたことは事実である。しかし、上告人と被上告人らとの親族関係が円満を欠くようになり、身分関係を明確にする必要性が生じたこと、さらにはEの死亡に伴う遺産分割調停の申し立てという具体的な紛争が発生したことが確認される。このような状況下で、法的利害関係を有する親族が真実の身分関係を確定させるために訴えを提起することは、正当な権利行使の範囲内といえる。したがって、長期間の放置や死亡後の提訴という点を含めても、信義に反するとはいえない。
結論
本件認知無効確認請求は、信義則に反せず、権利の濫用にも当たらないため、有効である。
実務上の射程
認知無効の訴えに提訴期間の制限はないが、本判決は信義則による制限の可能性を認めつつ、身分関係の不一致を解消する必要がある場合には広範に認める姿勢を示した。答案上では、戸籍の正確性という公益的要請を重視し、権利濫用の抗弁を排斥する際の論拠として利用できる。特に遺産相続を契機とした死後の提訴という類型において、期間の経過のみをもって信義則違反とはならないことを示す重要な指針となる。
事件番号: 昭和51(オ)1009 / 裁判年月日: 昭和52年2月14日 / 結論: 棄却
認知者の意思に基づかない届出による認知は、認知者と被認知者との間に親子関係があるときであつても、無効である。