首肯するに足る特段の事情を示すことなく、当事者問の合意の内容を記載した書面の文言に反する事実を認定した原審の事実認定には、経験則違反がある。
書面に記載された合意の内容と反する事実を認定することと経験則違反
民訴法394条
判旨
当事者間で作成された念書に「自発的に退職する」旨が記載され、退職日までの給与支払や他職の斡旋が約されている場合、特段の事情のない限り、退職の意思表示は念書作成により確定的に表示されたものと解すべきであり、斡旋義務と退職合意に対価関係(同時履行の関係等)を認めることはできない。
問題の所在(論点)
念書における「自発的退職」の意思表示が念書作成時に確定的に発生しているか、あるいは学園による「就職斡旋義務」の履行が退職の意思表示の効力発生の条件または対価関係にあるといえるか。
規範
処分証書(契約書等)の解釈においては、書面の文言が明確であれば、原則としてその文言通りの合意があったものと認定すべきである。文言に反する内容や、一方の義務の履行が他方の意思表示の効力発生の条件(または対価関係)であると解釈するには、その合理性を支える「特段の事情」が必要となる。
重要事実
大学教授の被上告人と大学経営の上告人学園との間で、学内紛争解決のため「本件念書」が作成された。念書1項には「昭和46年3月31日をもって自発的に退職する」旨、4項には「学園は被上告人に適当な職場を最大の努力と責任をもって斡旋する」旨が記されていた。被上告人は退職願を立会人に預けたが、学園の斡旋努力が不十分であることを理由に、退職の効力を争った。
あてはめ
本件念書の1項には自発的退職の申出と学園の承諾が明記され、3項では退職までの給与支払が約されている。これら文言の明確性に照らせば、退職の意思表示は念書作成時に確定しており、再度退職の意思表示をする義務を負うものではない。また、4項の斡旋条項は「斡旋を約する」との記載に留まり、これを退職の条件や対価関係とする文言はない。原審が特段の事情を示さずに対価関係を認めた事実は、経験則に反する解釈といえる。
結論
学園の斡旋義務の履行は、被上告人の退職の意思表示の効力発生条件ではなく、両義務が対価関係にあるともいえない。退職の効力は念書の成立により確定的に生じている。
実務上の射程
契約解釈における文言重視の原則を示す。特に、一方にのみ不利益な条件付解釈や同時履行関係の安易な認定を否定しており、書面が存在する事案での事実認定の枠組みとして重要である。「特段の事情」がない限り、処分証書の文言を離れた認定はできないという主張の根拠となる。
事件番号: 昭和56(オ)47 / 裁判年月日: 昭和58年9月20日 / 結論: 棄却
一 委任契約たる税理士顧問契約は、受任者の利益をも目的として締結された場合でない限り、委任者が、民法六五一条一項に基づき、いつでも、かつ、なんらその理由を告知せずに、解除することができる。 二 税理士顧問契約において、一般に契約の長期継続が受任事務の的確な処理に資する性質を有し、当事者も通常は相当期間継続することを予定…