一 委任契約たる税理士顧問契約は、受任者の利益をも目的として締結された場合でない限り、委任者が、民法六五一条一項に基づき、いつでも、かつ、なんらその理由を告知せずに、解除することができる。 二 税理士顧問契約において、一般に契約の長期継続が受任事務の的確な処理に資する性質を有し、当事者も通常は相当期間継続することを予定して契約を締結するものであり、依頼者から継続的、定期的に支払われている顧問料が受任者たる税理士の事務所経営の安定の資となつている等の事由があつても、右契約が受任者の利益のためにも締結されたものということはできない。
一 委任契約たる税理士顧問契約と民法六五一条一項に基づく解除 二 委任契約が受任者の利益のためにも締結されたとはいえないとされた事例
民法651条1項
判旨
税理士顧問契約は委任契約の性質を有し、特段の事情がない限り、委任者は民法651条1項に基づきいつでも自由に解除できる。報酬の支払い義務や契約の継続性が期待される実態があっても、直ちに「受任者の利益をも目的とする契約」には当たらない。
問題の所在(論点)
税理士顧問契約において、委任者による民法651条1項に基づく任意解除権が制限されるか。特に、報酬特約や契約の継続的性質が「受任者の利益をも目的とする」ものとして解除権を制限する事由になるかが問題となる。
規範
1. 委任契約は当事者間の強い信頼関係を基礎とするため、受任者の利益をも目的とする場合を除き、委任者は民法651条1項により理由を問わずいつでも解除できる。 2. 「受任者の利益をも目的とする」とは、単に報酬支払の特約があることや、顧問料が受任者の経営安定に寄与している、あるいは事務の性質上長期継続が予定されているという事情だけでは足りない。
重要事実
被上告会社は、税理士である上告人との間で、税務事務および経営相談・資料作成等を目的とする顧問契約を締結した。その後、会社側が本件契約を解除したため、税理士側が解除権の制限を主張して争った。上告人は、税理士法による規制、報酬特約の存在、および顧問料が事務所経営の安定に寄与していた事実等を理由に、一方的な解除は許されないと主張した。
あてはめ
本件顧問契約は高度の専門知識に基づく事務委託であり、性質上は委任契約である。税理士法による諸規制は委任契約としての本質を変更するものではない。また、報酬支払の特約や、顧問料が上告人の経営の資となっていた事実は、委任事務処理の対価にすぎない。事務の的確な処理のために長期間の継続が予定されている実態を考慮しても、これらをもって直ちに受任者独自の利益を目的とする契約とはいえない。したがって、委任者である会社側による解除を妨げる特段の事情は認められない。
結論
本件税理士顧問契約は民法651条1項に基づきいつでも解除可能であり、被上告会社による解除の意思表示によって有効に終了した。
実務上の射程
専門職との顧問契約一般(弁護士、公認会計士等)において、民法651条1項の適用を肯定するリーディングケースである。答案上は、報酬特約や経営上の期待があるだけでは解除権は制限されないという「受任者の利益」の狭い解釈を論述する際に用いる。ただし、解除が受任者に不利な時期になされた場合の損害賠償(同条2項)の可否は別問題であることに注意を要する。
事件番号: 昭和51(オ)771 / 裁判年月日: 昭和54年3月23日 / 結論: 破棄差戻
首肯するに足る特段の事情を示すことなく、当事者問の合意の内容を記載した書面の文言に反する事実を認定した原審の事実認定には、経験則違反がある。