一 日本電信電話公社の社員公募に応じ、試験に合格して採用の日、配置先、採用職種及び身分を具体的に明示した採用通知を受けた者が、同公社からの求めに応じて被服号型報告表を提出し、入社懇談会に出席し、健康診断を受けたなどのことがあり、他方、同公社において、採用通知のほかには労働契約締結のための特段の意思表示をすることを予定していなかつたなど、判示の事実関係のもとにおいては、社員公募に対する応募は労働契約の申込であり、これに対する同公社の採用通知は右申込に対する承諾であつて、これにより、応募者と同公社との間に、労働契約の効力発生の始期を採用通知に示された採用の日とし、解約権を留保した労働契約が成立したものと認めるのが相当である。 二 日本電信電話公社が、社員としての採用を内定したのち、その者がD委員会の指導的地位にあつて、大阪市公安条例等違反の現行犯として逮捕され、起訴猶予処分を受ける程度の違法行為をしたことが判明したとして留保解約権に基づき採用内定を取り消すことは、解約権留保の趣旨、目的に照らして社会通念上相当として是認することができ、解約権の行使は有効である。
一 採用内定により労働契約の効力発生の始期を採用通知に示された採用の日とする解約権留保付労働契約が成立したものと認められた事例 二 留保解約権に基づく採用内定の取消が有効とされた事例
労働基準法第2章労働契約
判旨
企業による採用内定の通知は、特段の事情がない限り、就労開始日を始期とし解約権を留保した労働契約を成立させる。内定取消は、内定当時知ることができず、知ることを期待できない事実を理由とし、解約権留保の趣旨・目的に照らして客観的合理的理由があり社会通念上相当と認められる場合に限り有効となる。
問題の所在(論点)
採用内定通知によって労働契約が成立するか、また、成立するとして企業による留保解約権の行使(内定取消)が認められる要件は何か。
規範
企業の求人募集は「申込みの誘引」、求職者の応募は「労働契約の申込み」であり、企業による採用内定通知はこれに対する「承諾」にあたる。これにより、就労開始日を始期とし、かつ、企業側に解約権を留保した労働契約が成立する。留保された解約権の行使(内定取消)が許されるのは、内定当時に知ることができず、かつ知ることを期待できないような事実が判明した場合であって、それを理由とする取消が、解約権留保の趣旨・目的に照らして客観的に合理的で、社会通念上相当と認められる場合に限られる。
事件番号: 昭和51(行ツ)114 / 裁判年月日: 昭和57年5月27日 / 結論: 棄却
地方公務員である職員としての採用内定の通知がされた場合において、職員の採用は内規によつて辞令を交付することにより行うこととされ、右採用内定の通知は法令上の根拠に基づくものではないなど、判示の事実関係があるときは、右採用内定の通知は事実上の行為にすぎず、右内定の取消しは、抗告訴訟の対象となる処分にあたらない。
重要事実
上告人は、日本電信電話公社(被上告人)の見習社員公募に応じ、試験を経て「昭和45年4月1日付で採用する」旨の内定通知を受けた。通知には健康診断の異常等による取消事由が記載されていた。上告人は指示に従い被服調査や入社懇談会に応じたが、入社直前、公社は上告人が以前に無届デモを主導し、公安条例違反等の現行犯で逮捕(起訴猶予処分)された事実を把握した。当時、職場内では同種団体による過激な闘争行為が発生していたことから、公社は適格性を欠くと判断し内定を取り消した。
あてはめ
採用通知には配属先、職種、身分が明示され、他に契約締結の手続が予定されていないため、通知の到達により始期付・解約権留保付労働契約が成立した。内定取消の事由について、上告人が過激な活動を行う団体の指導的地位にあり、違法なデモにより逮捕・起訴猶予処分を受けた事実は、企業側が内定当時に知ることが期待できなかった事実である。当時、職場秩序が混乱していた背景も踏まえれば、かかる違法行為を積極的に敢行した者を雇用することは不適当であり、適格性を欠くと判断してなされた取消は、解約権留保の趣旨に照らし客観的合理性と社会通念上の相当性が認められる。
結論
本件採用内定取消(解約権の行使)は有効である。
実務上の射程
大日本印刷事件判決と並び、採用内定の法的性質を「始期付・解約権留保付労働契約」と定義したリーディングケース。答案では、契約成立の有無を認定した上で、内定取消の適法性を「客観的合理的理由」と「社会通念上の相当性」という二基準(解雇権濫用法理に類似する枠組み)で論じる際に引用する。
事件番号: 昭和55(オ)1030 / 裁判年月日: 昭和59年3月29日 / 結論: 棄却
労働組合から除名された労働者に対してされたユニオン・シヨツプ協定に基づく解雇が権利の濫用として無効である場合には、右解雇を理由として労務提供の受領が拒否されても、労働者は、賃金請求権を失わない。